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【短編集】現実だってファンタジー
それが君の”しあわせ”? その2
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。これでは辛さと痛みに対応できない。

「ご飯おかわり!お冷も!」
「ハイただ今!!」

店員がすぐさまご飯とお冷ボトルを持って来る。
ご飯から湯気が出ている。熱を持っている。熱は最悪だ。血管を開かせ神経を過敏にも刺激する。冷えるまで待つしかない。豆腐もだ。表面が冷えても内側に熱を溜めこむ豆腐は麻婆豆腐の唐辛子より更に厄介な伏兵。痛い、痛すぎる。

食欲が邪魔をしてきた。ご飯を小皿に、麻婆豆腐と絡めてスプーンで掬い口まで持ち上げている。まだ口の中が冷えていない、ご飯も冷えていない。時期尚早。なのに食欲は既に次の一口を求めていた。

口腔を蹂躙し、舌を串刺しにする、痛み。

何でこの麻婆豆腐はおいしいの?何でおいしいのに辛いの?

辛い。
汗が、目に入りそう。
お冷。
お腹が。
ご飯が冷えない。
麻婆豆腐がまだある。
どうして。
どうして。
なんで私はこんなに辛い物を食べているの。
どうして。
辛い、辛いよ。
涙が出そうになる。
手が止まらない。
おいしい。
痛い。
水を。
痛い。
おいしい。
痛い。
残そうか。
残して諦めようか。
駄目。
なんで。
だって、食べたい。
いやよ、食べたくない。
でもおいしい。
でも辛い、痛い。
痛い。
お冷。

脳裏を駆け回る言葉が少しずつ脱落していく感覚。視界がクリアに――精神がフラットに――ただ、食べたいという食欲だけが、何度も何度も拷問のように繰り返された痛みを克服するかのような、境地へ。

次の匙を。
次の匙を。
次の――

「あ・・・・・・?」

次の麻婆豆腐は、もうない。
ご飯も無い。
皿の中の全てのものを、食べ終えている。

「・・・・・・った」

その事実を認識した瞬間に、駆け抜ける快感。

「・・・やっ、た」

告げられる、勝利のファンファーレ。


「やったぁぁぁぁーーーーーッ!!」

彼女はその煉獄と天国の狭間を潜り抜け、現世に舞い戻った。
人は何故辛い物を求めるのか。辛い物を求める人間は果たして幸せか。
その答えが、彼女の中で出た。

――この達成感は、代えがたい価値がある。

そして、溢れ出る歓喜を抑えられないまま、私は親友の方を向いて――

「やった、やったよ悟子――」
「・・・・・・」

ぺらり、と紙の捲れる音。読んでいるのは、さっき本屋で買ったらしい漫画。
こっちを見ていない。というか、完全に興味が無い。
その漫画を暫く読んで、悟子は一言。

「あ、今いい所だからちょっと待ってて」
「――・・・・・・・・・・・・」

その冷めた対応に、今までの辛さが全部吹き飛んで呆然とする。いくら間宵が苦しみの先の達成感を幸せと感じたとしても、
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