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ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
錬金術師の帰還篇
33.錬金術師の帰還
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まって絶叫した。その瞬間、彼女の全身から放たれたのは、桁外れに凄まじい魔力だった。大気が凍てつき、凪沙の周囲が白く煙る。花弁のように雪の結晶が荒れ狂う。
「なにっ!?」
冷気を浴びた二体目の天塚が、身体中を白く凍らせながら転倒した。
「なんだよ、こいつ……!? この魔力はいったい……!? くそっ!」
一体目の天塚も怯えたように後ずさって逃走を始めた。
友妃と雪菜はそれを見送るしかなかった。天塚を追いかける前に凪沙を止めなければならない。
「凪沙ちゃん──!」
“夢幻龍”の魔力結界によって友妃は雪菜を冷気の渦から防ぐ。
純白の冷気をまとった凪沙が立ち上がる。
しかしそれは凪沙ではない。完全に意識を失っており、何者かに憑依されている。
このままではいずれ船ごと破壊されてしまう。しかし今の凪沙は意思をもって攻撃をしているわけではない。ただ彼女の中に眠るなにかが窮地を救うために現れただけだ。
そこに存在するだけで、破壊を撒き散らす。
それは二人の最強の吸血鬼のそれに酷似していた。
そんなことを考えているうちにも船の破壊は進んでいく。
息を整えて、銀の刀を今一度強く握りしめ、凪沙へと飛び込む。
「──獅子の御門たる高神の剣帝が崇め奉る」
神々しい黄金の翼が銀の輝きを放つ刀から展開される。
全てを無力化する“夢幻龍”の刃ならこの状況も抑えられるはずだ。
「虚栄の魔刀、夢幻の真龍、神域の翼膜を──っ!」
友妃の祝詞が止まる。
身体が床から引っ張られるように動かなくなる。その理由は、一瞬で理解できた。
通路の床と友妃の足が氷塊で凍りついている。
「……慌てるでない、獅子王の帝よ」
凪沙に憑依している者が、凪沙の声で友妃を制止させるように言う。
「そんなことをすればこの娘もただではすまんぞ。それでもよいのか?」
確かにその通りだ。強制的に憑依状態からの魔力を無力化されたら、肉体へのダメージの量など計り知れない。
「それでもこのままあなたを放置すれば船が沈むことになる」
すると不意に魔力の波動が消滅する。
「そうだな……貴様たちに少しだけ時間をくれてやる……」
そう言って凪沙が目を閉じる。糸の切れた操り人形のように、彼女がその場に倒れていく。
床と接着さているように凍りついている氷塊を銀の刃で砕く。
「友妃さん……今のはいったい……」
雪菜が白い吐息を吐きながら、友妃に訊く。
「わからない。でも、あの感覚……」
そこで言葉を濁す。この先の言葉を言ってはいけない気がした。それに言わずとも雪菜もわかっているだろう。
凪沙のことも気になるが、今は天塚のほうが気がかりだ。
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