夜明けと夕暮れ、秋色に
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た後に、分家の跡継ぎを立てて一時降伏を呼びかけ、上層部に従っている振りをしながら後見人として自分のある程度の地位も守る……そんな鬱陶しいやり方。袁家も守れるし、私も追い遣れるし、地位も安泰。そうなればあいつは尻尾を出しはしない。曹操の掲げる信賞必罰は、証拠がなければ効果がない。あのクズは詰めが甘くても、下拵えは念入りにする方だからバレないと思う」
あんぐりと口を開く明に、夕は漸く寝台から起き上がり、するすると服を着て行く。
全ての衣服を身に纏い、ワンサイドアップにリボンを括った所で、ビシリ、と明に指を立てて示した。
「お母さんが此処にいる限り私は逃げられない。だからきっと、負けた場合、私は背中からの刃で死ぬ。私が捕えられてもお母さんが死ぬ。勝った場合も早急になんとかしないと私もお母さんも死の淵に陥る。背水の陣とか四面楚歌とか、そんな美しく呼んでいい状況では無い。これは、一つ一つの全てに勝てなければ私の世界が終わる……そういう泥沼だらけの状況」
決意の籠った黒い瞳が冷たく輝いていた。凛と響く声は芯が通り、自信に溢れていた。明はその姿に見惚れる。
ああ、やはりこの子は美しい、と。諦めて依存しているだけの自分とは違って抗う事が出来るのだ、と。
「戦の状態で何もかもがあらゆる方面に動く。その時その時で最善の選択肢を取らないと台無しになる。絡まった意図から先手は打てない。でも、後の先というモノもある。最善から最悪まで全て読み解くから、明はその都度、私の言う通りに動いて。本初を必ず……大陸の勝者にして、全てを手に入れて、世界を変えてみせる」
言葉を聞いて幾分、いつもの不敵な笑みでは無く、明は優しい笑みを浮かべて夕を抱きしめた。
「うん♪ 任せてよ、あたしの大切なお姫様♪ あなたの為に、あたしの為に」
「ん、いつもありがと、明」
静かに、温もりに包まれたままで目を瞑る夕は……回した思考の中で立った一つの絶望の予測から、内心で想いを乱す。
――明……いつもあなたを救いたいと願うのは、どうしてなんだろう。“あの事”があったとしても、お母さんの為に人を使い捨てにする私が、此処まで心を入れ込んでしまったのはなんでなんだろう。私と同じように秋兄なら、あなたを変えて、救えるのかな?
同時に、壊れている彼の事が思い浮かんで、別の想いも湧いてきた。
――秋兄が居たら、私達に救いはあったのかな。秋兄の頭脳で私は追い詰められたけど、そんな事考える私は、変なのかな。どうしてこんなにも、あの人の事、求めてしまうんだろう。どうして……あの人さえいれば、救われたのにって……世界をこんなにも憎んで……しまうんだろう。
心の内だけで彼女は……弱音を零した。自身の微細な変化の意味が、何かも分からずに。
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