夜明けと夕暮れ、秋色に
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せようと小さな抵抗を試みる。
ふと、隣に居たはずの友の体温が感じられない事に気付いた。
「明……?」
「いるよー」
間延びした声は背後から。くるりと身体を向けて彼女を見ると、既に衣服を着ており、椅子に座って何やら書簡に綴っていた。
僅かに漂うのは洗い流しても取れぬ血の香り。死の匂い。
聡く気付いた夕は、寝台に寝そべったままで言葉を向ける。
「入った情報は何?」
筆が止まる。空気が冷たく凍った。夕の脳髄がヒヤリと冷えて行く。
「……上層部にも内緒で飼ってるあたしの下僕が張った網に掛かったのが……“新しい袁家のねずみだった”。本初にあたし達の認識外の目が付き始めてる」
驚愕に目を見開き、バッと身体を起こした。
告げられた内容は間違いなく……自分達が追い詰められたという事だから。疑心暗鬼が、遂に頂点にまで達したのだ。
「で、でも、私も本初も次の戦には必須なはず。上層部は……もしかして曹操に降伏する事も……」
「かもしれない。下手したら本初を切り捨てるかも」
思考が巡る。寝起きの脳髄が、既に一番最高の状態にまで持って行かれていた。ある程度のレベルで受け答えをしてくれる明の存在が、夕には何より有り難かった。
上層部の者達は恐れているのだ。田豊と張コウ、それに袁紹達三人が叛意を見せる事を。敗北した場合に矛先を向けられる事を。
まだ使えるまで使おうとしているから直接言ってこない。バッサリと決断しないあたりが意地汚さを存分に表現している。そしてこの諜報に隠された意味は、情報が得られれば御の字、捕まって零した場合は夕達に警告を与えられる、という事だ。
飼い殺しのギリギリのライン。人質が居るから夕と明は逃げ出せず、加えて麗羽をも助けるなら抜け出せるわけがない。
否……違った。夕は気付く。麗羽すら、人質に取られたようなモノだった。
ギリ、と歯を鳴らした夕は、このような手を使う者を知っている。保身に長けているあの男らしい手であった。
「これは郭図の案。勝てれば最善、負けても袁の血は結構分家があるから、存続は望める」
「……どれだけ曹操を舐めてるんだか」
話の内容が跳んだにも関わらず、長い時間共にいるから思考を読み取り合わせた明の、憎らしげに舌打ちをついてからの一言。しかし、夕はふるふると首を横に振った。
「違う。曹操の厳しさを知っているからこそ、負けた場合に“上層部を縮小させる為”の一手」
「なっ! さすがにおかしいよ!」
「あいつは自分の地位が大事。でも、他人を蹴落とすのも好きでたまらない。予想でしかないし、私の方がこの前の戦の件もあって信用が低くなってるから上に何も言えないことが問題。
郭図は前の件で上層部を見限ったからこう来た。本初が曹操に負けて殺され
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