夜明けと夕暮れ、秋色に
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に答えられるはずも無く、睨みつけて来ただけ。残念だった。そんな芯の通ってない瞳ではあたしの腹は満腹にはならない。曹操軍の斥候なら、鼻で笑ってくれただろう。褐色猫狂いの手下なら、捕まる時に自ら死んでいただろう。何よりも……
――“あの人の身体”ならば、もっと胸の底から切なくなるような満足感をくれたのに。
ほんの二月ほど前の事、大切なあの子が慕うあの人――――黒麒麟徐晃の部下を戦場で幾人か捕えて、拷問で死なせた。
涙を零しても、悲鳴を上げても、死ぬその時まで折れない心。どれほど残虐な拷問を行おうとも、彼らは決して口を割らなかった。
聞きたかった内容は一つ。黒麒麟の“全てを話せ”。
恐怖と苦痛と絶望にも屈さずに、彼らから返ってきた言葉は、死の間際の笑みと共にただ一つだけ。
『乱世に華を、世に平穏を』
嗚呼、やっぱり……と、理解が深まるだけである。あの人は異常者だ。この地獄のような世界を変える、たった一人の異常者だ。
泣きそうだった。嬉しくて、嬉しくて。
――ただの兵如きを、あたしの空腹を満たせる位置まで狂わせるなんて、この世界であの人以外には誰もいない。
家族が居て友も居るような一介の兵士を、肥溜めを蠢くクソ虫のような汚いモノ達とは違う綺麗な人々を、あの人は綺麗なままで狂わせる。
初めから闇夜を生きる影のモノならば、あたしの拷問に耐えるモノの方が多い。しかし……ただの一般人ではそんな事態にはならないはずだ。
あたしと同じように堕ちているはずなのに、彼らはあたしと違って綺麗過ぎる。
あの人の全てを知りたい。夕も……あたしも……。
夕は……もうあの人から逃げられない。今日の情事の最中に、淡い色を瞳に浮かべて彼の名を一度だけ呼んだのがその証拠。
あたしは……どうなんだろう。
あの人に支配されて、綺麗になりたいのかもしれない。汚れは落ちないって分かってるのに。所詮クソ袋の戯言だ。
――違うか……多分、夕とあたしを重ねて、幸せな“自分”を共有したいだけ。あたしはやっぱり、夕が居ないとダメらしい。
「話す気が無いって? じゃああたしとイイコトしよっかー♪」
思考を回しながら、目の前の男に幾本かの針を見せつけると、男は自分の指先を見た。
爪に? 甘い。そんな場所はありきたり過ぎる。
とりあえず耳を片方、掻き回そう。じっくりと、じっくりと。その後は背骨の髄を弄ろうか。ゆっくりと、ゆっくりと。
舌なめずりをすると、平然を装いながらも焦りと恐怖を混ぜ込まれた瞳が向けられた。ゾクゾクと背筋を快感が駆け巡る。
「朝まで時間無いからさー、ちっとばかし急ぐけど……ある程度は耐えてね♪」
さあ、この男はどれだけ耐えるだろうか。
情報を得る為なのは当たり前だけど、
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