夜明けと夕暮れ、秋色に
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つと口付けを落として行った。ぶるり、と彼女が震えた。だが起きる事は無い。安心と安息に支配され、自分達二人を闇が覆う夜だけは泥のように眠り、脳髄に休息を与えている。
丹念に、丹念に、片方の鎖骨をなぞるように舌を這わせた。ぬらぬらと光る唾液は、扇情的な艶を白き肌に齎していた。
空腹だった。腹が減った。食い散らかしたかった。目の前の少女では無い、誰かを。命を丸ごと、悲鳴を前菜に、絶望に堕ちる瞳を彩りに……嗜虐の快楽を貪り尽くしたい。
もう片方の鎖骨には唇を付けるだけに留めた。自身の劣情と嗜虐の衝動をどうにか抑え切れるように。されども、欲する手は止められそうにない。耳元、首筋、背中、腰……ゆるりと滑って行く己が掌は、彼女の肌に吸いつけられてしまいそう。
「ぁ……」
甘い吐息と共に、小さな嬌声が上がる。途端に自分の理性が本能を制止した。飼いならすのは、大変だというのに。
やはり、これ以上は進めない。寝ている間に食べてしまうのは約定違反。抑え切れそうにない情欲の渦は、解放を許されなかった。
代わりに優しくぎゅうと抱きしめて耐えていると、遠くから近付いてくる人の気配と共に、カタカタ、と二回音が鳴った。
――合図っ……ご飯の合図だ!
雨季の子供が晴れの日にはしゃぐのと変わらないような歓喜が心に押し寄せた。なんたる時機。自身が狂ってしまいそうな今この時を見計らったかのような……。
頬に二つ、額に一つ。彼女の三点に口付けを落として笑みを浮かべる。
「ふふっ♪ 行ってくるねお姫様。お腹へっちゃったんだー♪」
起きるはずが無いのは分かっているから、耳元で囁いた。
寝台から身体を起こし、手早く着替えるのもいつも通り。目を閉じて、辺りに何も危険は無いかと探る。天井に、隣室に、床下に、幾つかの見知ったモノの気配。自分の下僕ばかりが護衛の任に付いている事が確認出来る。
音も立てずに扉を出て、扉の前の護衛兵二人に目を向けた。
「腹が減った」
口から出た音は乾きと空虚を乗せて。それだけで伝わるように躾けてあるから、頷いた彼らにもう用は無い。そろそろ慣れてもいいだろうに、服従を示しながらも畏れ慄く視線は、何故に無くならないのか。
抜き足で廊下を走ること幾分。一つの床板を翻し、暗い地下への階段を抜けた先、重苦しい扉を開けて……“あたしの食事場”に着いた。
「―――――っ!」
目の前の餌は縛られて猿轡をされているから、動けない、話せない、死ねない。怒りを伝えようとしているようだが、くぐもった無様な音を奏でるだけ。
自然と口元が引き裂かれていた。身体が熱い。息が弾む。歓喜と情欲が沸き立って頭の中が沸騰しそう。快楽を……ただ快楽を。
「ようこそ袁家へ♪ 何処の人かなー?」
問いかけ
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