第十二話 終局
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第十二話
「おう、遅かったのう」
荷電粒子重砲の管制室に長岡が入っていくと、本木が居た。実にいつも通り、無精髭を生やした飄々とした顔をしている。しかしその手には拳銃。その銃口は長岡を捉えている。
「それ以上近寄んなよ。近寄ったら撃つけんな。」
言いながら、本木は管制室の大きめのスクリーンに、建御雷の位置を示す俯瞰図を映し出した。
「早めに自動操縦にしといて良かったのう。お前らが思ったより、こちらに侵攻してくるんが早かったけん。いや、お前らって言うより、遠沢か。あいつは強すぎたけんな。ま、今はめでたく、この荷電粒子重砲が東京を捉える所までやってきたわ。」
スクリーンに映る建御雷のマーカーから、放射線状に、荷電粒子重砲の射程距離が伸びる。確かにその範囲は、東京都の中心部に及んでいた。
「ここののう、このボタンを押すだけでの、日本の首脳陣達もお終いじゃのう。」
「一度、綺麗さっぱりするってか。この国の既得権益、掴んで離さない連中全員皆殺しにして。」
「そういう事じゃのう。」
本木は、自分の手元に数百万人の命を握っているボタンが存在するという事には、大して何も感じていないように見えた。エネルギー充填は終わっている。この大量破壊兵器は、この艦で起きた惨劇を吸い取って、今はその口を開けて、“死”を吐き出そうとしていた。
「お前らの負けじゃ。頼みの遠沢がここにやって来ようが、まぁ俺は殺されるじゃろうが、俺としては後はこのボタン一つ押すだけで目的達成じゃけのう。どちらにしても、俺の勝ちよ。お前らの逆転はないけぇ。」
この勝利宣言に、眉をピクつかせたのは長岡だった。
「あぁ?アホかお前ェ。今俺がしにきたのは、俺とお前の勝負だけんなァ。東京の事なんざどうだってええわい。とっととそのボタン押して、スッキリしてからかかってこいやァ!」
怒鳴りつけられて、いつも通り飄々とした本木の表情が一瞬崩れた。
「……お前らしくないで?キッチリ真面目に仕事して、情には篤く、そして人間を大事にする。俺が見てきた長岡という男はそういう男だったんじゃけど、のう。」
「たった一年の付き合いで何が分かるんだ、何が!それも、マヤカシの一年間、偽りの研修だろうがっ!」
「俺とお前の間で目的が違うた、その時間の意味づけが違うた、ただそれだけで、その一年間は一年間として確かに存在した一年間じゃ、違うんか?」
がなり立てる長岡と違い、本木は実に穏やかだった。数百万の命を左右するボタンを、すぐ側に擁しているのにも関わらず。自分の目的の達成まで、あと少しまで来ているのにも関わらず。実に穏やかだった。
「お前とは、馬が本当によう合うた。野球が二人とも好きじゃったしのう。お前と俺が野球部の同期という“設定"は、俺が途中から
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