第十二話 終局
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息をついた。
「……私が弔わないといけない、そんな気がするんです。……単に、この人に手を合わせたいという気持ちもありますし」
「勇敢だったものなァ。テロリストに占拠された建御雷を取り戻そうと1人残って戦い、健闘虚しく殉職なさった副長様。」
古本が言った事は、それは報告書に記載されている中身で、もちろん古本もその内容を信じた上で言っているわけではない。
古本のからかうような口調にムッとしつつ、同時に脱出艇のプラットホームで戦う意思を自分に伝えた時の長岡の表情、勇敢そのものな姿も思い出され、遠沢はまた沈痛な面持ちになった。
「……古本さん」
「ん?」
「あの荷電粒子重砲、私が射った訳じゃないんです。もちろん、中野さんでもありません。副長が……自らの意思で撃ちました」
「んん〜?何だって〜?聞こえな〜い」
古本は聞こえていない振りをするが、その目は笑っておらず、それは“外でする話じゃないだろう”というメッセージを含んでいる。しかし、遠沢は構わず続けた。
「……副長は、テロリストは絶対に許せなかったんだと思います。でも最後の1人を始末した後、自らの意思で荷電粒子重砲を射って東京を焼け野原にしたのは……テロリストと同じくらい、日本が許せなかったからでは……」
「黙れよ。」
古本は今度は声に出して言い、遠沢の肩を強い力で掴んだ。遠沢は今度こそ口を噤み、古本に引っ張られるままに連れていかれ、墓地の側のスペースに着陸しているヘリに一緒に乗り込んだ。
砂塵を巻き上げながらヘリが離陸する。小さくなっていく墓地を窓から見下ろしながら、遠沢は状況の変化を実感した。自分1人を呼び戻すのに、まるでタクシーのようにヘリを使う。東機関の力を象徴しており、そしてあの“東京事変”以前は、到底こんな事は出来なかった。
東京事変においては、最序盤のゲリラの蜂起、それに続く中共敵貞処の襲撃などで、陸軍近衛師団と民間人に相当数の被害が出ていたが、トドメの建御雷からの超遠距離攻撃の被害はそれらの比ではなく、帝都東京の中心部が丸ごと“消えて無くなった”。
日本政府は一瞬にして消滅したが、そのダメージがまだ軽く収まったのは、国家元首たる天皇陛下が極秘裏のうちに呉鎮守府に出ていた事と、国内最強のインテリジェンス機関である東機関がそっくりそのまま、これまたいつの間にか機能を維持したままで東京以外の場所に移転し難を逃れていたからであった。
……その日天皇陛下が東京に居なかった事も東機関による手引きがあったと考えられている。なおかつ、政府機能の中で東機関だけが“偶然”の直前移転により難を逃れる……こんな偶然が起こりうるはずがないのだが、その不自然に対して文句をつけるはずの、東機関以外の情報機関…内調、警察庁、公安は、今はもう存在すらしていない。
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