第三章
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「悪いことしないわよ」
「マリア様のイコンだからか」
「そう、ただ性格が明るいだけよ」
「随分砕けた聖母様だな」
「イコンによって性格も違うのよ」
同じ聖母マリアでも、というのだ。
「これがね」
「初耳だな」
「面白いでしょ」
「面白いっていうか嘘みたいだな」
本当に信じられなかった、今も。それだけブロコヴィッチにとって今自分が目の前にしていることは受け入れ難いことなのだ。
「全く以て」
「まあまあ。それでね」
「まだ何かあるのか」
「私イコンから出て来たじゃない」
「何度も言わなくてもわかった。信じられないがな」
「だからね」
それでだというのだ。
「飲んだり食べたりもしないわよ」
「ただ出て来るだけか」
「そう、悪いこともしないし飲んだりも食べたりもしない」
「飲み代や食費は関係ないか」
「ついでに言えばお風呂にも入らないわよ」
このことも自分から言うマリアだった。
「有り難いでしょ」
「イコンの中の人間だからか」
「どう?こんな有り難い居候他にいないでしょ」
「そういうものか」
「じゃあいいわね」
また言うマリアだった。
「私夜はここにいるから」
「それでそうしてか」
「ええ、夜の番をさせてもらうからいいわね」
「待て、女房を呼んでくる」
ブロコヴィッチは自分だけで即断することを避けた、それでだった。
まずは妻のタチヤーナをリビングに呼んだ、そしてマリアを見て唖然としている彼女に事情を説明した。この際イコンを指差すことを忘れない。
「わかるな、これで」
「ええ、イコンから出て来たマリア様なのねこの人」
「間違っても俺が若い恋人を家に連れ込んだんじゃないからな」
「あんた浮気しないじゃない」
このことはわかっているタチヤーナだった、ブロコヴィッチは酒好きだが女は彼女一人だ。その辺りは真面目なのだ。
ましてやだ、女の服を見ればだった。
「どう見ても今のロシアの服じゃないじゃない」
「イコンそのままだろ」
「ええ、誰がどう見てもね」
「わかるな、これで」
「イコンのマリア様がおられた場所は白くなってるし」
タチヤーナが見てもそうだった。
「間違いないわね」
「そういうことだ、だからな」
「この人はマリア様ね」
「信じられないがな」
「これが呪いなのね」
「そういうことよ」
マリアはタチヤーナにも笑顔で話す。
「呪いのイコンなのよ、私のイコンはね」
「絵からマリア様が出て来る」
「そういうことよ。ただご主人にもお話したけれど」
マリアはタチヤーナにも自分が飲み食いもしなければ風呂に入る必要もないことを話した。そして聖母だから悪いことをしないこともだ。
そうした事情を話してだ、あらためて彼女に言った。
「宜しくね」
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