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トラブル=バレンタイン
トラブル=バレンタイン
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うよ」
「本当は今日のこと考えてたんじゃないの?」
 ここでふと言い返した。
「もらえるかどうかって」
「馬鹿、御前と違うよ」
 兄はこう言い返した。
「もう彼女もいるさ。少なくとも本命のチョコは一個はあるんだ」
「そうなの」
「そんなことより御前こそ気をつけろよ」
「何をよ」
「競争相手に負けたりしないようにな」
「岳君は浮気したりなんかしないわよ」
「どうだかね」
 だがここで兄はわざと意地悪な顔をしてみせた。
「男なんてな。裏ではどうだかわからねえよ」
「それはお兄ちゃんだけよ」
 そんなことを話しているうちに母親が来た。まずは兄に対して言う。
「一三はさっさと御飯を食べて学校に行きなさい」
「はいよ」
「早苗は着替える。そして御飯を食べるのよ」
「わかりました」
 早苗はそれに頷いた。見れば兄は慌しく御飯を食べはじめそれが済むと家を出た。父親はもう職場に出ている。早苗は部屋に戻ってパジャマを脱ぎ学校の制服に着替える。それはセーラー服であった。黒地に昔ながらのくすんだ赤のリボンを持つセーラー服であった。早苗はそれを着て食事と身支度を終えて学校に向かう用意を整えた。
 その際鞄の中にチョコレートを入れるのは忘れなかった。これを忘れては流石にどうにもならないからだ。
「遅れないようにね」
「わかってるわ」
 母親に挨拶をして家を出る。そして学校に向かった。
 まずは学校の体育館の中にあるバスケ部の部室でジャージに着替え朝練に参加する。この学校のジャージは上下共に青いジャージでありかなり目立つ。それで軽く汗をかいたところで練習は終わった。
 制服はそのままで教室に向かう。この学校では制服でいるよりジャージでいることの方が遥かに多いのである。そうした学校であった。
「ねえ畑中君」
 早苗は部室を出る時にたまたま近くにいた例の彼氏に声をかけた。
「あ、俺」
「あんた以外に誰がいるのよ」
 早苗はそう言って笑った。そして彼に対して言った。
「やっぱり」
「今日だけれど」
「チョコレートのこと?」
「ばかっ」
 慌ててその言葉を引っ込めさせた。そして辺りを見回す。幸い誰もいなかった。
「よかった」
 早苗はそれを確かめてほっと胸を撫で下ろした。がらんとした体育館には二人の他に誰もいなかった。
「それでね」
「うん」
 二人は側に寄って小声で話をはじめた。
「今日の放課後渡すから」
「本当に!?」
「だから声が大きいのよ、あんたは」
 そう言ってまた言葉を遮る。
「そう言う早苗ちゃんだって」
「いいから。まずはね」
「うん」
 早苗に押し切られる形となり話を続ける。

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