第六章
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第六章
「早く寝たらいいよ。じゃあね」
「ええ、またね」
こうして悠樹の中では話が終わった。しかし奈々はまだ扉のところにいた。そうしてふとした感じで言うのだった。
「まあ頑張るのね」
これが自分に向けてのものとは悠樹は知らなかった。知る以前にこの言葉を聞いてもいなかった。こうして真夜の誕生日となった。その日の放課後彼は彼女と二人になるとまずあの楽譜を差し出したのだった。
「あのさ、これ」
「曲なのね」
「うん。何がいいかなって思ったけれど」
戸惑い顔を真っ赤にしながら話すのだった。
「これにしようって思って」
「音楽なの」
「真夜ちゃんのこと書いたんだ」
こう真夜に述べる。
「よかったら。受け取って」
「ええ」
まずはその曲を受け取る真夜だった。受け取ったうえでその大人びた顔を微笑ませる。
「有り難う」
「うん」
「この曲、有り難く受け取らせてもらうわ」
楽譜をその両手で抱き締めながらの言葉だった。
「私の為に作ってくれた曲だから」
「ギターでも弾けるから。聴く?」
「勿論よ。けれど」
ここで真夜は話を少し変えてきた。
「もう一つ欲しいわ」
「もう一つって?」
「悠樹君の心。受け取ったわ」
その曲にあるのだと。言葉の中に言っていた。
「それでね。今度はね」
「今度は?」
「まずは。これは」
楽譜は丁寧に折り畳み自分の鞄から取り出したファイルに入れた。そのうえで鞄の中に入れてあらためて悠樹に対して言ってきた。
「こうして」
「それで。何が欲しいの?」
「私からのお礼でもあるけれど」
言いながらそっと前に出て来た。そして。
彼を抱き締めたのだった。その両手でそっと。これは彼にとっては思いも寄らないことだった。
「えっ・・・・・・」
「抱き締めて欲しいの」
悠樹を抱き締めながら囁いてきた。
「こういうふうに。私も」
「真夜ちゃんも」
「ええ。抱き締めて」
また悠樹に言ってきた。
「どうか。御願い」
「抱き締めて欲しいの」
「心は温もりよ」
真夜の言葉だった。
「だからね。抱き締めて」
「それが欲しいの」
「ええ」
悠樹の言葉に対して答える。
「御願い。私にも」
「だったら」
悠樹は真夜のその心を受け取った。そうして。
抱き締めたのだった。彼女を。二人で抱き締め合う形となった。その中で彼はまた真夜に言ってきた。
「これで。いいんだよね」
「ええ。これで満足」
真夜の声が笑っていた。
「これでね。もう何もいらないわ」
「満足してくれたんだね」
「どんな高いものも立派なものもいらないの」
これは奇しくも奈々が言った言葉だった。
「けれど。心が欲しかったから」
「僕の心が」
「それが貰えたから。もう
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