繋いだ手は一つ、繋ぎたい手も一つ
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通す為に。
「……夕、どうすんの?」
全く鎌を動かさない明が軽く問いかけると、夕は小さく鼻を鳴らす。
「いい、合格。こういう人を待ってた」
「そっか。何回も試してごめんね、荀ケちゃん」
飄々と謝る明に先程の冷たさは無く、鎌もすぐに降ろされた。
どっ、と桂花の身は安堵の汗に濡れる。よくもまあ、袁家の重鎮相手に抗えたモノだ、と。
自分より大きなモノに、これほど直接的に抗ったのは初めてだった。高揚感が身を包み、安堵と共に湧いてくるのは快感。ギリギリの線のやり取りを通せたというのが堪らなく心地よかった。
無意識にペタリ、と床に脚を付く。掌を確認すると気持ち悪いほど湿っていた。グシグシと服の裾で拭い、無様な姿など見せてやらないと立ち上がろうとして……抱き起こされた。
「とりあえずー、お近づきの印にっ」
「きゃっ!」
ぎゅー、と先ほどまで鎌を突き付けていたはずの明に抱きしめられる。何が何やら分からない。そのまま、桂花は寝台まで連れて行かれた。座らせるカタチで降ろされると、
「じゃ、あたしはもう必要ないから、お二人さんでごゆっくりー♪」
「ん、じゃあお願い。頑張ってね、明」
「あはっ、了解致しましたー、あたしのお姫様♪」
明は軽い言葉と華が咲いたような笑顔を残して部屋から出て行った。
呆然と見送り思考停止すること幾分。カタリ、と椅子を目の前に持って来られて桂花は漸く夕の方を向いた。
「な、何? 何がしたいのよ、あんた達は」
当然の疑問であった。
自分が此処に呼ばれた理由は、犬に成り下がれという事ではないのか。いきなり試したり、貶めたり、また試したり……訳が分からなかった。
「言葉遣い、二人っきりの時だけはそれでいい。此処からは取り引き。あなたは仕えたいと思える主が欲しい。私は母の仕事を楽に出来る人が欲しい。犬になって欲しいのではなく、対等の立場として交渉がしたい。下級文官のような動かしやすい立ち位置のままあなたの力量に合った仕事を“追加”するから、私はあなた好みの主を探して此処を抜けやすいように手を打って置く。そして四日に一度、あなたの知識欲と経験を磨く為に私とお話をしたり勝負し合う。これでどう?」
願っても無い。桂花には最高の取引きである。
夕の地位であれば入ってくる情報は自然と桂花よりも多く、下級文官ならば抜けても組織にはあまり問題は無い。しがらみも何も気にせずにやりがいのある仕事も出来る。
しかし、桂花は間違わなかった。
「……私をずっと縛り付けておく事も出来るじゃない」
口約束程度を信ずる事は出来ない。二転三転とやり込められているのだ。先程のように力で脅す事も容易い。まだ、夕を信頼するには足りなかった。
「ん、そう言うと思った
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