繋いだ手は一つ、繋ぎたい手も一つ
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ノが添えられた。
「あーあ、しっかーく。この程度の挑発に耐えられないなんて、あんたホントに頭いいの? それにね、上位のモノに立てつく為には命を賭けないとダメな腐り落ちた世の中だって、知らないわけ?」
冷たい、首に当たる刃よりも冷たい声。物音一つ無く動いたという驚愕よりも、命を刈り取る金属よりも、明の声がただ、恐ろしかった。
「直ぐに感情的になるのは軍師失格。物事を早計に判断させ、視界を狭め、主も国も、全てを不幸に落とす。命を秤に乗せる私達が、感情という重しを加えてはダメ」
機械的で無感情な声音が桂花の耳に突き刺さった。
まだ自分は彼女の掌の上で踊っているに過ぎないのだ、と思い知らされる。
悔しさ……吹き飛んでいた。
怒り……凍りついて冷めてしまった。
恐怖……まだ、抑えられた。
冷静にと、冷や水が脳髄に浸透したかのような感覚。研ぎ澄まされていく思考の中で、桂花は先ほどまでのやり取りを瞬時に回し、彼女達と漸く、本当の意味で“相対”した。
「……最初っから危ういモノを予測して、回避させ、叩き潰し、上回るのが軍師。その点で言えば、此処に何も準備をせずに赴いた時点で私の負け。でも、人の命の重さを語るなら、主と国の為に才と人生の全てを賭けてこそ。だからあんたは……軍師、いえ、為政者ですら無く、決め兼ねていた私にすら劣る。勝負の土俵にも立ってないあんたとは違って、私の一人勝ちよ、田豊」
お綺麗な言葉遣いなど投げ捨てていた。
刃を向けられてもその声は強く、論理の隙を突いた。
忠誠心の欠片も無いのは本初と呼び捨てにした事と、自分をわざと昇進させない事で分かった。袁家と民の為に働いているならこんな回りくどい事はせずに、自分を使う為にあらゆる手段を講じたであろう。だから夕が袁家の軍師としても為政者としても足り得ない、と言い切った。
屁理屈をこねたようなその勝ち宣言の後には、静寂だけが重苦しく圧しかかっていた。
理不尽だ、と喚こうとも刃は首に掛かっている。桂花が力で抗う前にその細い首は跳ね飛ばされてしまうだろう。しかしながら、彼女は頭脳を使って武力を動かす側だ。
――醜く腕を振り上げる事が智者? 否。生まれてからこれまで培ってきた知識と頭脳、天より与えられた才覚で……智という人間に与えられた最も崇高な力を以って理不尽に抗い、弁舌で己や主に道を示すのが智者だ。
彼女は自分を曲げない選択を取った。己に対する自信は芯となる。理を以って理不尽に抗う姿は誇り高く美しい。それこそが自分であるのだと信じ抜いた。
――これでいい、権力にも、武力にも、屈してなんかやるもんですかっ! この程度の下らない圧力を口で切り崩せなくて何が軍師よっ!
そうして桂花はぎゅっと目を瞑る。命を賭けて、自分を押し
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