繋いだ手は一つ、繋ぎたい手も一つ
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に忠も誓わず、他者を利用し尽して大切な人のみを救いたい。例えそれが、押し付けであろうとも。きっとあの子は且授を逃がす為に自分を犠牲にしただろう。明が内心で、自分をも救い出そうとしている事を知っていながら。相変わらずあの二人は噛み合っているようで噛み合っていない。
傍から見れば私は掌の上で踊っていた道化に過ぎない。
でも……あの子はきっと、時を重ねる内に私の事を考えるようになった。だから“あの時”……助けを求めずに逃がしてくれたのだから。
「でもそれならどうして……田豊さんは袁家の再興を望んでいるのでしょうか? もっと裏打ちで被害を増やす事も出来るはずです。わざわざ新兵器まで用いて徐州の侵略に急いたのかも納得し兼ねます」
且授が病床にいる以上動けないとしても、袁家を強大にする理由にはならない。
確かあの時、風はなんと言っていたか。黒麒麟が怖いのではないか、とそう言っていたはず。殺したかったのか? でも、それなら夕はもっと非情な手段を用いるはず。徐州の城で雛里と徐晃の策を回避する為に街を犠牲にしなかった理由も分からない。
ああ、そうだ。分かった。違う。
「……そっか、夕は……黒麒麟に感化されたんだ。自分の主を変えたいと願った。正しく彼女は、主の為の王佐になったのよ」
彼女の欲張りの質が変わった。その中に、自分も入ったのだ。
言いようも無い安堵が心に来る。夕は漸く、自分を世界に居れた。自分から幸せになろうとしている。
結果が私との確かな敵対とは、なんとも哀しい。でも……これで説得がしやすくなった。
目の前では雛里がぶすっとむくれていた。
「どうしたの?」
「……なんでもありません」
そんな不足な顔をしてなんでも無いという事は無いでしょうに。
「……いつでもあの人は……人誑しでしゅ」
呟いた言葉は聞こえなかったけど、可愛らしい嫉妬の炎が瞳に燃えていた。
夕を変えたのが黒麒麟、というのが心に苛立ちを生む。またあいつか、と思った。
――華琳様にしろ、夕にしろ、雛里にしろ……どこまでも私の周りにするすると干渉してくるなんて……次に会った時は思い知らせてやるんだからっ
内心で呟くと、涼やかな風が頬を撫でたのを感じた。
日輪が傾いていた。美しい橙の光が、もうすぐ訪れるだろう。
「そろそろ戻るわよ。今回の事で過去の事をちゃんと話しておいた方がいいって分かった。だから、明日から休憩の時にその話をしましょう」
「え……? 夜にすれば――――」
「ダメ。人は誰しも夜分は感情が表に出やすいから夜に過去の話はしたくない。あなたが判断してくれるとしても、“私が”夕の事をしっかりと読み解きたいのよ」
言うと、雛里は納得したようでコクリと頷いた。
「さ、行きましょ
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