第五章
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第五章
今回も曲はバラードだ。そして作詞も彼だ。あれこれと考えながら曲を作っていた。
「はじめてだけれどね」
「そういやはじめてだったな」
「うん」
また周りの部員達に答える。
「そうだけれどね」
「作詞はじめてだったのかよ」
「それでも結構やるな」
部員達は彼が詞を書いていっているのを見てコメントした。
「っていうか本当にはじめてか?」
「何かいい詞じゃね?」
「だよな」
皆今彼が作っている詞を見て言う。
「上手い感じになっているな」
「上手だな」
また言う彼等だった。
「このままいけばかなりな」
「ああ、名曲ができるな」
「うちの部で今年一番だよな」
「そうだよな」
皆で言い合う。彼の作詞を素直に認めていた。
しかし当の悠樹は浮かない顔をしている。その顔で脇目も振らず曲を作っている。周りの部員達の顔すら見ようとはしないのだった。
「まだ駄目かな」
「駄目か?」
「いけるよな」
「なあ」
彼等の目ではそうなのだった。
「このままいったらな」
「まずどころか確実に大丈夫だろ」
「いけるって」
「やっぱり駄目だよ」
しかし彼は首を横に振って言った。
「これじゃあね。まだ駄目だよ」
「駄目か?」
「まあ作ってるのは御前だからな」
「納得しないのだったらいいけれどな」
周りは彼の言葉を聞いて納得はしないがそれでも認めるしかなかった。彼等の誰も今回の作詞作曲に関わっていないからこれは仕方がなかった。
「とにかくだよ。あまり根詰めるなよ」
「身体に悪いからな」
「わかってるよ」
一応口ではこう答えはする。
「それはね。けれど今の曲じゃ駄目だ」
「やりなおしかよ」
「それでかよ」
皆彼の言葉に釈然としないながらも止めることはできなかった。
「御前が納得するようにしたらいいさ」
「いい曲作れよ」
「うん」
こうして曲を作っていく。何度も何度もやり直し誕生日の前日の夜遅くになって。遂に曲ができたのだった。彼女の為の曲が。
「できた・・・・・・」
自宅の自分の部屋だった。その部屋の中で彼は完成した楽譜とその詞を見て言った。暗い部屋の中で机の灯りだけを点けその中で会心の笑みを浮かべていた。
「これで。遂に」
「ねえ悠樹君」
ここで部屋の扉の向こうからあの奈々の声が聞こえてきた。
「まだ起きてるんでしょ。いい?」
「いいってもう十二時だけれど」
「まだ十二時よ」
こう来た。
「十二時じゃない。夜はこれからよ」
「これからって明日学校なんだけれど」
たまりかねた声で従姉に言い返した。
「私もよ」
「じゃあ早く寝たら?」
「学校が怖くて飲めないわよ」
これまた随分バンカラな言葉であった。傾いていると言ってもいい。
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