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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
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感じている。貴族が絡んでいただけではないようだ。
「何を考えているのかは分からなかったが分かった事も有る。それは司令長官は多寡を括る事が無いという事だ。閣下を甘く見ていると酷い目に遭うぞ、俺はこの目でそれを見たからな」
「……」
「気にしていないのではない、今すぐ動く必要は無いと判断しているのだと思う」
三人で顔を見合わせた。ワーレンは口を結びファーレンハイトは何かを言いたそうにしている。
「俺には司令長官はローエングラム伯にかなり遠慮をしているように見えるが……」
俺が言うとファーレンハイトが頷いた。遠慮しているから動かないのではないか? 二人でワーレンを見たがワーレンは答えない。“卿は如何思う?”と答えを促した。俺達の中で司令長官をもっともよく知っているのはミュラーだろう。そしてその次にクレメンツ、ケスラー、ワーレンと続く。ワーレンが息を吐いた。
「俺は遠慮ではなく配慮なのではないかと思っている」
「配慮?」
ファーレンハイトが問い掛けるとワーレンが頷いた。
「司令長官は年長者、上位者との関係を作るのが下手ではない、むしろ上手だろう。周囲に対してそれなりの気遣い、配慮の出来る方だ」
なるほど、俺達が特に不満を持つ事も無く下に居られるのもその配慮の御蔭か。ファーレンハイトも頷いている。
「しかしローエングラム伯はちょっと違う。年下だし元々は伯の方が階級は上だった。一時期はかなり親しかったと聞いているが今のローエングラム伯は宇宙艦隊司令長官の座に戻りたがっている。伯にとって司令長官は邪魔な存在だろう。そしてローエングラム伯はそれを隠そうとしない。今の状況は司令長官にとってはちょっとやり辛いのではないかな。それと俺が気になるのはローエングラム伯がその辺りの事をまるで感じていないように見える事だ。そちらの方が危ういと思う」
「つまり貴族達からみればそれが付け入る隙に見えたというわけか」
俺の言葉にワーレンが頷いた。
「そういう事だ。ローエングラム伯が司令長官の配慮を感じ取ってくれれば例え野心が有ってももう少し二人の関係は滑らかなものになったはずだ。今回のような事は無かったと思う。だがその気遣いが伯には出来ない」
「……」
ワーレンは溜息を吐いている。彼の言う通りだ。年が若いから、というのは理由になるまい。同年代の司令長官はそれが出来るのだ。
「俺は伯の下にも就いたことが有るから良く分かるんだがあの二人はまるで正反対だ。周囲への配慮が出来る司令長官とそれが出来ない伯。今のままでは司令長官の配慮は空回りするだけだろう、一番良くない組み合わせだな。司令長官も感じているんじゃないかと思うが……」
なるほど、面白い意見だ。遠慮ではなく配慮か、だがその配慮がまるで通じない相手が居る、配慮が遠慮に見えてしまう……。
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