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相棒は妹
志乃「私としては――」
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来なかった。

 気まずい。俺は別に下心があって志乃を抱きしめたわけじゃ無い。ただ、あの場で自然と体が動いたのだ。このままだといけない、どうにかして志乃を何とかしたいと思ってたら、いつの間にか密着していたのだ。

 今その流れでバッグの中から無事な機材取り出して「また作らないか?」って聞けば良かったのに。ああもう、自分の不器用さに笑えない。

 だが、俺はそこで一つ言い忘れた事を思い出した。それは、今自分が考えていた内容に付随する事なので、ここで素直に明かす方が良いだろう。

 「あのさ」

 「?」

 「俺、こんな事言うのも不謹慎なんだけど、実はバッグが衝撃受けたって聞いた時、少しだけ思っちゃったんだよ。ああ、これでまた志乃と作業が出来る、って」

 「……」

 「なんか安心しちゃったんだ。志乃がこれで辞めるなら俺は尊重するつもりだった。最初で最後になるって思ってたから、余計に考えちまった」

 言い出して、志乃が顔を小さく伏せたのを見て、失敗したと思った。俺は無知すぎた。これはもっと後になって言うべき話だった。直後にそんな話をしたら刺激してしまうのに。俺はなんて自己中なんだよ。

 自己嫌悪に陥りながら、次の言葉を見つけ出せずにいると、志乃の方から微かな呟きが聞こえてきた。

 「……いじゃん」

 「え?」

 それは普段以上に小さく、もはや何を言っているのかさっぱり分からなかった。それに対して短い疑問で返したのだが――次に見た志乃の表情に、俺の頭の中が真っ白になった。

 志乃は、今まで見せた事の無いような満面の笑みで――今度は聞こえる声で言い放った。

 「こんな楽しい事、辞めるわけないじゃん」

 その笑顔は、比喩なんかじゃなく、太陽のように眩しく、素敵だった。そして、何故か俺の脳裏に小学生だった頃の志乃が浮かんだ。ああ、似ている。こいつは、こんな感情豊かな奴だった。妹だという事も忘れて、俺は少し見惚れてしまっていた。

二人で無事な機材を整理し、破損した志乃のパソコンは捨てる運びとなった。投稿する作品は、俺のパソコンを使って、後日改めて録り直す事にした。ピアノの件はゆっくり考えると志乃は言った。ただ、すぐ答えを出せるような問題じゃないのは確かな事だ。

 でも、志乃はいつも通りに不敵な笑みを顔に貼り付けながら、最後にこう言って俺の部屋を後にした。


 「まぁ、私としては多利間さんを叩くより大事な事があるんだけどね」
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