強いられた変化
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置いとこかな。誰か使うてくれるやろ」
「……っ!」
真桜の話の途中で、秋斗の頭に鈍い痛みが走った。
金槌で何度も殴られるようなその痛みは、彼に何かを訴えるかのよう。
次いで、胸が痛む。ビシリ、ビシリと電流が走るかのように。身体と心が引き裂かれるかのように。
真っ白な世界が頭を過ぎった。
次いで、地獄のような死体の山と血の海が見えた。赤い髪が風に舞っていた。
最後に見えた、三日月型に引き裂かれた口は誰のモノであるのか。
――なんだ……これ……?
痛む頭と胸を押さえながら秋斗が思考を回そうとすると、もうそれらは頭に浮かばない。
「に、兄やん?」
心配そうに見つめる真桜。秋斗は目を一つ瞑って、幾つか深呼吸をして痛みが引くまで耐えた。
ゆっくりと、顔を上げて笑顔を作る。もう、痛みは消えていた。
「大丈夫だ。なんか偶に頭痛がするんだ。何かしら思い出す兆候かもしれないなぁ」
「そらぁええことなんやろけど……無理したらあかんで?」
「ん、ありがとよ」
礼を一つ言って、大丈夫と示す。
しかし、秋斗は違和感を覚えた。先ほどまでは全く、欠片も分からなかったモノが、何故か“分かる”という異常な事態に……彼は目を見開いた。
――なんで……斧での戦い方が“分かる”んだ……
さも、今まで経験してきたかのように、彼にはその扱い方が次々と思い浮かぶ。
剣での戦い方は前から同じようにそうであった。だが、斧での戦い方も分かるようになっているのだ。
震えた。怖かった。恐ろしかった。
自分が何か違うモノに変わってしまった感覚が……心を恐怖一色に染め上げる。
この世界で目覚めた時のように、いきなりであれば怖くなかっただろう。今回は……起きている間に変化が起きた。だから彼は、ただ自分が、恐ろしかった。
自分は誰だ……と、疑ってしまう程に
自己の認識を自ら乖離させていく。黒麒麟の幻像が遥か遠くに見え、追い縋りたくとも追い縋れない現実がズシリと彼の頭に圧し掛かる。
カラン……と斧が落ちて音を鳴らす。秋斗は膝を付いて蹲った。
願う声が聴こえた。幻聴のはずだ。誰の声なのかも分からない優しくて哀しい声だった。
責める声が聴こえた。幻聴に違いない。同じ声は昏い暗い音を吐き出していた。
「兄やん? に、兄やん! ちょ、どうしたんよ!?」
駆け寄る彼女に答えることも出来ず、誰にも話すことなど出来ない。
彼はいつもたった一人で……己に与えられた理不尽と向き合うしかなかった。
†
白の世界で少女は哀しげに眼を伏せる。
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