第二章
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第二章
ある湖の側に二つの村があった。その二つの村は互いに水を巡って争っていた。こうした話は昔からよくある話だった。水は恵みと共に争いの種にもなる。
一方の村にイハマという娘がいた。黒く長い、そしてしなやかな髪が紫にも見える美しい娘で瞳もまるで紫だった。その紫の美しい娘はいつも夜になると湖へ船を漕ぎ出していた。そうしてそこで月を見るのが日課になっていたのだ。
この日もそうだった。一人月を見ていた。そこにもう一艘船がやって来たのだ。
「あの船は」
見れば向こうの村からだ。互いに争っている関係なのはイハマも知っている。彼女は思わず身構えた。
だがそこにいるのは血生臭い男ではなく精悍でありながら凛々しい顔立ちの若者だった。表情も穏やかで争おうとしているわけではないのは月明かりに照らし出されていた。イハマはそれを見てまずは安心した。
「娘さん」
若者の方からイハマに声をかけてきた。
「貴女はどちらの方ですか?僕はアッパ」
彼はイハマに尋ねると共に名乗ってきた。
「向こうの村の者ですが」
「私はイハマといいます」
イハマも名乗った。やはり向こうの村の者だがそれでも名乗ったのだった。
「あちらの村の者です」
「あちらのですか」
「はい」
アッパに対してこくりと頷いた。
「そうです。私達はお互いに」
「けれど。今は誰もいません」
それがアッパの返事であった。
「誰もですか」
「お月様が見ておられるだけで」
今度は上を指差した。白銀の満月がその優しく淡い光で二人を見下ろしている。その他には誰もいなかった。優しい月だけだった。
「ほら、他には誰もいませんよね」
「そうですね」
イハマもそれに気付いた。本当に誰もいなかった。
「私達とお月様以外は」
「お月様は黙っていて下さいます」
アッパはそう言って穏やかで優しい笑みを浮かべた。その笑みで言うのだった。
「ここでのことは。貴女は」
「私は?」
「とても奇麗だ。僕は今まで貴女のような方に出会ったことはない」
「そんな」
イハマはアッパのその言葉を聞いて白銀の光の下で頬を赤らめさせた。それは夜の帳の中でも月の光に照らし出されていた。そうしてその赤らめさせたのをアッパに見せていた。
「私はそんな」
「宜しければですね」
アッパも自分で思った。どうして今日はここまで大胆になれるのであろうかと。普段の彼からは想像もできない程大胆になっているのに自分でも気付いたのだ。
「今日はここで二人でお話しませんか」
「二人でですか」
「どうでしょうか。幸いそのお月様以外には誰もいませんし」
「けれど」
イハマは異端は拒もうとする。だがそれは彼女の本心ではなかった。
「それは」
「ですから私の村の者も貴女の村の者も誰もいないの
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