暁 〜小説投稿サイト〜
ムラサキツメクサ
第一章
[1/2]

[1] 最後 [2]次話

第一章

                 ムラサキツメクサ
 私が北海道に行った時の話だ。札幌のあちこちを歩いてふと喫茶店に入った。
 外見は特に何の変哲もない店だった。落ち着いた白い内装でただ店の中のあちこちに日本ハムファイターズの選手の写真やフラッグがあった。見ればあの懐かしいオレンジのユニフォームまであった。
「また懐かしいな。しかも」
 ユニフォームの番号を見る。二十一だった。
「西崎のか」
「あっ、お客さんわかったみたいだね」
 カウンターにいた顔中髭だらけのマスターが私の言葉を聞いて機嫌をよくさせた。額が広くでっぷりと太ってまるでオペラ歌手のパバロッティのようである。というよりか本人に生き写しであった。見ればカウンターには大沢親分の写真が立てられている。完全に日本ハムの中にあった。
「西崎がわかるなんて通だね」
「パリーグファンですからね」
 私はマスターにこう返した。巨大な腹が黒いエプロンに覆われているのが見える。そういうのを見ていると本当に何かアリアでも歌いそうな姿である。
「これ位は」
「じゃあ二十六番は誰かわかりますか?」
「江夏ですよね」
 私は笑ってこう言葉を返した。
「前に言っておきますが八十六は神の背番号」
「そうそう」
 マスターは私の言葉にさらに機嫌をよくさせる。
「百は永久欠番。オーナーの背番号だから」
「いいねえ。よく知ってるじゃないか」
「思い出はありますから」
 私も笑顔で言った。このオレンジのユニフォームをまさかここで見られるとは思わなかったからだ。懐かしい記憶が頭の中に蘇る。
「子供の頃からね」
「球団は何処のファンですか?」
「今はソフトバンクです」
 素直に答えた。あくまで今は、であるが。昔は違っていたがもうそんなことは思い出したくもなかった。
「おや、じゃあ完全にライバルですね」
「そうですね。日本ハムも強くなりましたよ」
「色々ありましたけれどね」
 マスターの目が優しいものになった。見れば肌が普通の日本人よりも白い。それが髭と合わさって結構目立つ。顔立ちも少しコーカロイドめいて見えた。
「北海道に来てから変わりましたよ」
「ソフトバンクも九州に来てからですし」
「あの名門南海があそこまで変わるとは」
「よかったんですかね。まあ巨人に潰されなくてよかったですよ」
「全くです」
 マスターは真剣な顔で私の今の言葉に頷いてくれた。私はその間にカウンターに座った。そこでさらに話を続けるのだった。
「巨人こそ潰れるべきです」
「その通りですよ。あそこは独裁国家です」
 私は忌々しげに言った。
「球界の北朝鮮です。どんどん惨めに敗れて醜態を晒せばいいんですよ」
「気が合いますね」
 マスターは私の巨人叩きに機嫌をよくしてくれた。
[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ