志乃「じゃ、やるか」
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マイクがこうして揃ったのは嬉しいが、やはりこれはまだ始まりに過ぎないのだ。
「それと、兄貴にはもう一つ」
「まだなんかプレゼントしてくれるのか?」
「まぁね」
そう言って、志乃はピアノの椅子に座り、ピアノの台を上げて鍵盤を外の晒した。
「?」
「課題曲の伴奏、聴いてて」
それだけ言って、志乃は軽く息を吐いてから、静かに指を鍵盤に添え、演奏が始まった。
まず言いたいのは、志乃がピアノを本当に好きなのだということ。
志乃の使うグランドピアノは、電子ピアノよりも鍵盤がやや重い。それなのに志乃は涼しい顔して鍵盤と足のペダルを器用に押して、俺の耳に『音楽』を送り込んでいる。
俺は立っているのも目障りだと思い、静かに腰を下ろした。そして、志乃がピアノを弾く様子をじっと見守っていた。
志乃がピアノを弾いている時、あいつ少し笑ってるんだ。それも、普段とは違う清々しいような表情。まるでそれこそが自分の楽園とでも言うように。その姿が、彼女の操るピアノ自体にマッチし、とても絵になるなと感じた。
外見だけじゃない。志乃の演奏は神レベルだった。課題曲であるボーカロイドの曲は、元が生演奏で人がやっているから簡単だと思っていた。だが、それはアレンジすればの話であり、本家の曲をそのまま弾くのは難度が高いというのが、実際の志乃の演奏を聴いてて分かった事だ。曲に合わせた疾走感がハンパじゃない。あれを間違え無しで弾き通す志乃が輝いて見える。
一つ一つの音が透き通って俺の鼓膜を揺さぶってくる。頭にその情景を連想させるような、耳が感動する感覚。俺は考えるのを止めて、ピアノの音色に聞き入っていた。
そして、たった三分近くの曲は終焉を迎え、ピアノの音が止む。その時に俺は酷い落胆を覚えた。もっと聴いていたかったという、個人的な要望だった。
「お前凄いよ。あの曲をあそこまで完成させてるなんて」
と、ここで改めて志乃のピアノを見てみた時に、俺はもう一つの驚愕する点を発見した。
「なぁ志乃。お前、これ暗譜してんの?」
「まぁね。でも、今の演奏の中にも少しだけ音間違ったから、そこ直しておく」
その言葉を聞いて、俺は全身に鳥肌が立った。ヤバい。こいつは本当に凄い。ピアノに関して膨大な知識と実力を併せ持ってる。これを圧倒的と言わずしてなんと称せばいいんだ?
「じゃ、やるか」
その時、志乃が突然そんな事を言い出した。
「やるって、何を?」
「マイク探しまくって大事な事忘れるとか兄貴らしい」
褒められたのか貶されたのか(多分貶された)、志乃はそう呟いてから再び言葉を紡ぎ出した。
「作品、作るなら始めないと」
「……お
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