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カサンドラ
第六章
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見せた。
「私の腕はな」
「では何だ?」
「この世界で最もだ」
 こう言うのであった。
「私に弓で勝てるのは偉大なるアポロン、アルテミス両神だけだ」
「言うものだな。神に次ぐか」
「そうだ。だからこそ見せよう」
 言いながら背中に手を回した。そこにある矢を手に取る。
「今ここで。その弓を」
「望むところ」
 アキレウスも彼と同じ動作をする。いよいよだった。
「一つ言っておく」
「何だ?」
 アキレウスの言葉に応える。二人の間の中空に黄金色の日があり青い空と黄の大地を照らしている。城壁にはトロイア軍、その向かい側にはギリシア軍がいてそれぞれ二人を見守っている。どちらもこの一騎打ちの行く末を固唾を飲んで見ているのだった。
「私に敗れたことは恥ではない」
「どういうことだ?」
「私は不死の身体を持っている」
 やはり言うのはこのことだった。
「如何なる刃も私を貫くことはできず槌もまた跳ね返す」
「弓もか」
「無論だ。それがなくとも私の力と技は誰にも敗れたことはない」
 自信の源は不死の身体だけではないのだった。
「その私に敗れてもな。それは言っておこう」
「果たしてそうかな?」
 だがここでパリスは不敵な言葉を口にするのだった。
「果たして。貴殿の言葉通りになるか」
「私は嘘は言わぬ」
「ではその言葉を嘘にしてみせよう」
 互いに弓を構えつつの言葉だった。
「今ここでな」
「ならば」
「参る」
 いよいよだった。
 二人の弓が極限まで引かれそのうえで矢が放たれる。二人は同時に弓矢を放った。パリスは弓矢を放つと同時にすぐに身体を右に捻ってみせた。
 既にアキレウスが自分の身体の何処を狙っているか読んでいたのは。それは左の胸だ。外すことのないアキレウスの弓でも何処を狙っているかわかればかわすことは彼にとっては容易いことだったのだ。
 だからこそかわすことができた。矢はアキレウスのものの方が速かった。放つと同時にもう身体を右に捻ったパリスの側を通り抜けトロイアの壁に突き刺さった。その石の壁さえも半ば貫いていた。恐るべき力だった。

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