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カサンドラ
第十章
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た。
「そうですか。兄様は」
「王様も奥方様も」
 二人についても語るアイアネアースだった。
「宮殿の中で」
「お父様もお母様も」
「パリス様は戦死されました。姉君様達や妹様達は」
「どうなったのですか?」
「何とかここに逃れられました」
「そうですか」
 それを聞いてまずは安堵するカサンドラだった。
「皆。無事ですか」
「はい」
「それは何よりです。けれど」
「けれど。何か」
「イオラトステスは」
 トロイアの方に顔を向ける。トロイアは業火で燃え盛り続けている。そのトロイアの方からトロイアの者達がまばらに逃れてくる。しかしその中にイオラトステスはいないのだった。
「いないのですか」
「何かあったのですか?」
「助けてくれました」
 俯いてアイアネアースに答える。闇の中で周りにトロイアの者達が疲れ果てた顔で集まろうとしている。思ったより助かった者は多かった。しかしイオラトステスの姿はなかった。
 それでもカサンドラは探す。彼がいるかどうか。やがての中で一人の姿を見た。それは。
「あれは」
「イオラトステス・・・・・・」
 腕に深い傷を負いふらふらとしながらだがカサンドラの方に来ていた。頭から血を流し鎧もマントも汚れているがそれでも彼は無事だった。
「姫様・・・・・・」
「イオラトステス・・・・・・」
 カサンドラは彼が自分の側まで来たのを見てまた声をあげる。
「無事だったのですね」
「助かりました」
 こう答えるのだった。
「ヘクトール様が。危ういところで」
「兄様が」
「はい。私を取り囲むギリシア兵達を倒されて。私を」
「そうなのですか」
「ですが」
 顔を俯けさせての言葉だった。彼もまた俯くのだった。
「ヘクトール様は。そのままギリシア兵達を倒され城壁まで迫った業火に」
「・・・・・・左様ですか」
「申し訳ありません」
 うなだれるしかないイオラトステスだった。
「ヘクトール様は。お助けできませんでした」
「いえ」
 だがカサンドラはイオラトステスに言うのだった。

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