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剣の丘に花は咲く 
第十三章 聖国の世界扉
プロローグ 動き出す者
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女がソレを見下ろすと、映し出される男と視線が合った。

「やっぱり―――!! 通じてる! って、ちょ、はぁ?! 何隠れようとしてんのよアンタはっ!? 待ちなさいっ、待って! 待てコラッ!!」

 映し出される映像の中で男がこそこそと逃げ出そうとする姿を見とがめた女が、先程のシリアスな雰囲気は何処へ行ったのやら、優雅も欠片もない様相で噛み付かんばかりに怒声を張り上げている。すると、それが切っ掛けではないだろうが、タイミング良く映像を映し出すソレが段々と小さくなっていく。女はそれを何とか止めようとするが、甲斐なくゆっくりとそれは小さくなっていく。

「待て!! 逃げんなこのっ! このまま消えたらあんたまた実験に協力させるわよ! いいの!? また高度六百メートルから何の装備もなしでフリーダイビングする羽目になってもッ!!?」

 男の意思でこうしているわけでなく、更に言えば逃げているわけではないため、かなり理不尽な事を言われているが、幸か不幸か音声は向こうには通じないようであった。
 握り拳程度の大きさにまでソレが縮むと、女はそれに顔を近づけ声を張り上げた。

「ちょっとッ! 聞いてんのッ! って言うか、アンタなんでそんなところ(・・・・・・)にいるのよッ!? アンタちゃんと分かってんの、そこは―――ッ」

 女の最後の言葉が形になる直前、銀色のソレは跡形もなく消滅してしまう。顔を上げた女は、消えてしまった銀色のソレがあった机の前で、暫くの阮レを瞑りじっと何か考えを巡らしていた。少しずつ目を開けた女は、机の上に手を置き何やら呟くと、机の一番下の引出しの取っ手を掴む。引き出しを開けると、中には古びた、しかし頑丈そうな木箱が入っていた。木箱の蓋には南京錠のような鍵と、その上に複雑な魔法陣が描かれた紙が貼られていた。物理的、魔術的に硬く封のされたソレを解除した女は、中に保管されていたものを取り出すと、壁に掛けていた赤いコートを掴む。ドアへと向かって歩きながら手にとった赤いコートを羽織ると、ドアノブに手を差し出し―――。

「……昔から目を離した隙にあちこち行く奴だったけど」

 肩越しに振り返り部屋の中を見渡した女は、先程まで奇妙な映像を映し出していた銀色の何かがあった机の上を見つめる。その顔には笑っているような、呆れているような顔が浮かんでいた。

「まさか―――あんな所(・・・・)にまで行くとは…………ね」

 顔を前に戻し、ドアを開け放ち部屋の外へと出た女は、扉が閉まる直前―――ポツリと呟いた。










「―――Das Danebengehen von Verbindung(ミッシング・リンク)……か」


 






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