第七章
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何か嬉しい気持ちになって他の本も探す。自分でもはしゃいでいるとわかる程気持ちがのっていたのだった。
「鴎外もね」
「そうね。雁とか」
切ない失恋の話だ。これも鴎外自身の話であるという。
「一緒に持って行きましょう」
「うん」
選んだのは恋愛小説ばかりだった。それはある程度意識していた。それを自分でもわかっていたから余計に気持ちが乗っていたのだった。
その気持ちは続いた。彼はさらに若菜が好きになってきた。その気持ちを抑えることができなくなり彼女との心の通い合いを続けていった。
そうしているうちにまた彼女を好きになる。彼女もそうだった。段々と尚志の側にいるのが楽しくなってきていたのである。二人の仲は進んでいく。
二人でいないと心が落ち着かなくなり二人だと落ち着く。図書室だけでなく教室や他の場所でも。二人の関係はもうクラスメイトはおろか学校中の話題となっていた。真はそれを見てまた彼と校舎裏で話をした。
「前言ったけれどな」
「矢吹さんのことだよね」
「そうだよ。いいんだな」
「いいよ」
尚志は思い詰めた顔で彼に答えた。
「僕は矢吹さんが好きだ。もうそれを隠せなくなったんだ」
「そんなにか。何があってもいいんだな」
「うん」
思い詰めた顔から強い顔になった。決意の顔だった。その顔で答える。
「矢吹さんのお父さんのことでしょ?言いたいのは」
「ああ。前に言ったよな」
真はそのことをあらためて言ってきた。彼女の父親のことはもう誰でも知っている。知っているからこそ誰も若菜と付き合おうとしないのだ。
「それでもか」
「それは最初からわかってるよ」
尚志は言葉を返してきた。
「だけれど」
「勝てるのか?」
「無理だね」
はっきりと答えることができた。彼は青白い若者に過ぎない。それに対して彼女の父親は武道の達人だ。とても適う相手ではない。そもそも尚志は喧嘩ができないのだ。だから本が好きだという側面もあるのだ。
「普通にやって勝てる相手じゃないよ」
「そうだ。彼女と付き合うのは無理だぞ」
「いや、それでも」
尚志は言う。
「僕は矢吹さんが好きなんだ。だから」
「怪我で済まないかも知れないのにか」
「わかった」
そこまで聞いたうえで頷いた。真はもう彼を止めるつもりはなかった。
「それならな。好きなようにしろ」
「そうさせてもらうよ。色々と考えたけれど」
「決意は固いか」
「怪我をしてもどうなってもいい」
こうまで言ってきた。40
「それでも僕は」
彼は迷いはなかった。迷いはなく一途に向かうだけだった。そのことを若菜にも言う。若菜はそれを聞いても驚きはしなかった。けれど言うのだった。
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