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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十一話 会議は進まず、されど謀略は踊る
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抜け目なく彼方此方に飛ばしていた視線を馬堂家当主に向けて云った。
 一見、気弱な機会主義者にしか見えないが、思い切った踏込である。
 ――流石は腐っても新進の衆民政治家といったところか。

「――大殿は政治家ですが、軍人でもあります。
方針は単純明快、国内だけの問題ならば、それも宜しいのでしょうが――〈帝国〉は巨大です、軍事力も経済力も、そして面子も」
 豊長もこの方針は基本的に間違っていないと考えているが、問題はその程度であった。
 ――相手が引き際を違えたら――否、本領の閣僚達が東方辺境領を直轄地とすべく東方辺境領副帝家の消耗を誘うかもしれない。
 ――あの軍事力に我が〈皇国〉の工業力が加わる事を本領の者達が座視するだろうか?

「私も同感です。要するに〈帝国〉の文官達に我々との戦争が割に合わないと理解させるべきなのです。交渉次第では北領の割譲と通商条約――経済面での譲歩で講和に持ち込むことは可能だと私は考えています」
 舞潟は珍しく単純明快に自らの考えを示した。
 ――当然、互いに消耗しきるまで戦うなどどちらにとっても迷惑以外の何物でもない、喜ぶのは破滅主義者だけだ。

「成程、それも確かに一つの手ではありましょうな」
 だが、講和となると――さらに廰堂は荒れるだろう――豊長ならざるともその程度の考えは及ぶ。
 ――否、だからこそ政変の機会となるか、北領割譲の件で護州閥が騒ぐだろうが。その際に排除を行う事もできる、北領での敗戦の責で吊し上げれば容易く守原英康を“掃除”――予備役編入することも不可能ではない。
 憲兵として幾度か汚れ仕事を請け負った豊長はその武人然とした外見の裏で現体制を担う一角を追い落とす方策を模索していた。
「現在のところ、衆民院は可能な限り動員を抑えていただけるのならば――」

「この戦は長期消耗戦になるか、敗北するかです。〈帝国〉と講和するにしても〈帝国〉が干渉を行われたら、導術弾圧を受けて現行の経済維持は不可能、むしろ崩壊するでしょう。儂も講和を一手段と思っていますが、内政干渉を排除しない限り交渉は意味がないと考えていただこう」

「それは――」

「舞潟殿・・・これは戦争なのです。それも大国相手の。手を抜いたらたちまち神聖不可侵なる宮城に匪賊上がりの軍勢が乗り込んで来るでしょう」

「それはそうですが・・・・」

「当面は後備の動員と避難民の生活保護の予算を後押しして頂きたいのです。
龍州軍も優勢な敵に対して不退転の決意で戦い続けた為に消耗が激しいのです。
ですが我が軍も敵の将を三名討ち取り、痛打を与えております。近衛総軍、第三軍の軍功は彼の戦場に居た全ての将兵の献身の成果でありましょう」
 美化はされているが事実であった。駒城は近衛衆兵の新城や先遣支隊の面々が、戦
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