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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十一話 会議は進まず、されど謀略は踊る
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最早陥落したと判断すべきです」

「そうなりますと、矢張り例の計画を行う必要があると?」
 弓月と同じ中立派(権益配分が主な職務である役職の為に必然的にそうなった)の州政局長が尋ねる。
「既に計画は動いている――説明は警保局長官から行なってもらう」
 西原閥の次官の言葉に応え、警保局の中条長官が立ち上がり、報告を行う。
「龍州政府、及び警務局は既に緊急体制を発令しました。龍下の〈大協約〉保護下に置かれていない各村落は既に所定の保護条項に該当する村落へ避難移動を開始しました。
警備隊による道の確保も万全です。勿論、〈帝国〉兵相手の戦闘は流石に不可能ですが、匪賊相手なら十分かと」
 駒城閥の中でも現実主義者だけあり如才無く説明をする。
「中条長官。泉川は軍の管轄だった筈だがどうなっているのかね?」
 安東閥の衛生局長が苛立たしげに発言する。
「龍州軍司令部は軍政、及び戒厳令を布告し、現在は兵站部が指揮を代行しているようです。
現在は、我々内務省の要請に従い非戦闘員の避難準備が行われています」

「龍後、龍前は?」
 弓月が即座に尋ねる。
「まだ〈帝国〉軍の襲来まで多少は時間がある事もあり、虎城山脈を越えて駒州・関州(駒州の北方に隣接)の移動を望む者が少なくありません。北領戦後の軍部の情宣によって〈帝国〉の乱行を恐れている事も大きいかと」
 中条長官の返答に予想外の横槍が入る。
「軍部から希望者だけでもなんとしても虎城より西に退避させろと言われておる。
特に成年した男を中心にな」
 横槍をいれたその張りのない声の主が、誰もが慇懃に無視していた覇気を失った内務省の長である事、そしてそれ以上に予想外である横槍の内容に幹部達が目を見張る。
一瞬の静寂の後、いち早く復帰を果たした故州伯爵が老大臣へと毒舌を飛ばす。
「軍部が無茶を云うのは部下を相手にする時と予算審議の時のみと思っていたのですがね」
 〈皇国〉陸軍上層部の人間から見たら奇妙な絵であるが、それぞれ別の閨閥に属している筈の会議の参加者達が皆、それに賛同している。
――この二十五年間の太平の時代に|厄介者(ぐんぶ)との戦い続けた中である種の結束が産まれつつあり、この連帯感の顕在化をこの横槍が決定づけたのだった。

「御国の為というのなら間違いではないのだ。動員を徹底せねば数が揃わぬ。
軍が敗北した以上、更に兵員が必要なのだ!」
無茶を理解している老官僚は顔を歪めながら言った。

「閣下、警務局は周辺三州の増援を受けてようやく最前線の龍下の民を保護できているのです。他のニ州を同時に護送するのは不可能です!」
 物静かな人柄だと思われていた中条が声を荒げる。
「・・・・」
 重い沈黙が会議室を満たす。
「無論、私からも兵部省へ協力を要請する。どの道皇
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