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愛は勝つ
第十二章
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「何があっても」
「今自分で言ったな」
 真は今の彼の言葉を指摘してきた。
「何があってもって」
「あっ」
 言われてそのことに気付いた。彼は確かに今何があっても、と言った。このことこそが彼の決意であったのだ。それを自分でも言ったのであった。
「そういうことだな」
「そうだね」
 自分の言葉に対して頷いた。
「わかったよ。それじゃあ武道もやるよ」
「それに案外いいかもな」
「身体も強くなるから?」
「そうさ。他人のことだからって言われるかも知れないけれどな」
 真はそう前置きしたうえでまた言ってきた。
「文武両道って言うじゃないか」
「文武両道かあ」
「そうさ、だからだよ。いいと思うぜ」
 彼はまた述べた。
「御前は頭と心はあるしな。後は身体だよ」
「身体かあ」
「三島由紀夫だったか」
 彼もこの名前を出してきた。若菜の父が好きなその作家だ。何故か若菜が関係する話は三島がよく出て来るものだと内心思っていたりもする。
「あの人だって最初は青白い青年だったよな」
「途中から剣道とかボディビルやってね」
 そうして己を鍛え上げて身体も強くしていったのだ。最初は痩せた顔立ちであったのが逞しく男らしい顔になったのである。人は変わるということの一例でもある。彼は現代の武士を目指していたとも言われている。
「そうなったんだよね」
「御前もそうなってみるか?」
 真は言ってきた。
「彼女の為にも」
「そうだね」
 あらためて頷いてきた。
「それなら」
「よし、じゃあこれで決まりだな」
 真は気持ちがいいまでのはっきりとした言葉を尚志にかけてきた。
「頑張れよ、応援しているからな」
「有り難う」
「松本君」
 ここで若菜の声がした。
「矢吹さん?」
「ちょっとこっちへ来て」
 声がした方を向くと若菜がにこりと笑って立っていた。そのうえで手招きをしていた。
「潮騒買ったんだけれど」
 その三島の代表作の一つである。気持ちのいい恋愛小説である。実は三島は恋愛小説を得意としていた。昭和の武士は意外と恋愛が好きだったのだ。
「読んでみない?」
「いいね、それ」
 笑顔で彼女の誘いに応える。
「それじゃあ」
「ええ」
「ちょっと御免」
 彼は真に顔を向けて言ってきた。
「悪いけれど」
「あ、行けよ」
 真はそんな彼を笑顔で送り出す。
「俺は漫画でも読んでるからな」
「うん、それじゃあ」
 彼はそのまま若菜の方へ行った。真は楽しく話をはじめた二人を見ながら本当に机の中から漫画を取り出した。週刊の漫画雑誌であった。
 それを開きながら尚志達を見る。そのうえで一人呟く。
「愛は勝つってやつかな、どんな苦労にも」
 何となく自分もそれをしてみたかった。今自分の前でにこやかに話
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