少女は龍の背に乗り高みに上る
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橙の色は濃く、窓から己が行く道を照らし行く。
たたっと駆ける少女の脚は長くは無い。普段運動しない事も相まって、過ぎ去った後に微笑ましい笑みを向けられるのも詮無きかな。
毎日。彼女は飽きること無くこの時間になると駆ける。
もう既に文官達は見慣れてしまってはいるが、それでもやはり少女の走る姿というのは応援したくなるモノであるのか、暖かい感情をじわりと吹き出させるらしい。
廊下を走るな、と注意するモノはいない。別段、そのような規則は定められておらず、城の主が何も言わないのならば誰も口に出そうともしない。
もう少し、もう少しで辿り着く。
息を弾ませて駆ける少女は、遂にその部屋に辿り着き、扉の前で息を整えること幾分……ゆっくりと、声を掛ける事無く扉を開いた。
「恋殿、今日もお疲れ様なのです!」
開け放たれるや響く元気のいい甲高い声と、満面の笑み。部屋に歩み入る彼女は陳宮――――真名を音々音といった。その少女と親しいモノ達は、真名の呼び辛さからか、それとも少女が願ってか、彼女の事を誰もがねねと呼ぶ。
燃えるような赤毛は光を受けて艶やかに光る。刺青の入った身体を寝台に落ち着かせて座っていた彼女の主は……ぼーっと窓の外を眺めていた。
返答は無い。それもいつものこと。ねねの笑みは変わらず、そのまま歩みを進めて、彼女の主の横に静かに腰を下ろした。
「今日は藍々がまたお茶を零しそうになったのです。書簡が濡れて危うく大惨事というところでしたが、菜桜の機敏な動きのおかげで助かりましたぞ。いやはや、あいつのそそっかしい所はどうにかしなければと常々話し合っているのですが――――」
腕をあっちにやったりこっちにやったり、身振り手振りを加えて、小さな身体で大仰に語るねねは楽しそうに今日の他愛ない話を紡いでいく。
あの街のどこそこのお菓子がおいしいらしいから今度取り寄せてみよう、とか。
仕事仲間が昼間に食べたなにやらはおいしかったらしい。自分は麻婆豆腐を食べたが辛すぎた、とか。
多彩な話……にしては食事の話題が多いモノを、彼女は話し続ける。今日のこと、明日のこと、仕事仲間のこと、街の様子のこと、延々と話し続けた。
されども……いつも返答は無い。彼女の主は無言で窓の外を見続けているだけ。昏い暗い、虚ろな瞳を空に向けて、聞いているのかいないのか。
気にせず、ねねは笑顔を崩さない。ずっと、ずっと、話を続ける。
それがねねと彼女の主、大陸の諸侯達に名高く噂される飛将軍呂布――――真名を恋、二人の現在の日常であった。
「――――というわけで、どうにか意見を聞いてくれたのです。やはり藍々は衣服を変えなくても、水鏡塾の制服のままでいいと思うのですよ」
他の誰かが聞いたのならば、乾い
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