少女は龍の背に乗り高みに上る
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せて。
乱世を喰らう悪の龍は、死の淵にして最後の喰い物を見つけた。
†
もう、幾度の夜を越えたのか。幾度悔やんだことか。
ねねの主は元に戻らない。友を信じたのが悪かったのだろうか。主の命を優先したのが悪かったのだろうか。
全ては我が身の罪。そしてこの冷たい時間は罰なのだ。そう、悲哀を胸に溢れさせていた。
主に話しかけても何も返って来ない。何かしろと言いつけられると動くが、食事と風呂でさえもねねが言わないと向かわない。自発的には何もしない。
城に侵入者が入る度に、その鋭すぎる感覚を以って排除して、また部屋に戻ってくるのも、与えられた仕事であるがゆえ。ねねが操っていた無敵の呂布隊は……もう此処にはいないから、練兵をする事も無い。
そのように、思考を止めて『人形』に戻ってしまった主とは違い、ねねには暖かい光をくれるモノがいる。
「体調は……見るからに悪そうなのです。意地っ張りも程々にするべきと、ねねは優しいので忠告してあげますぞ、龍飛」
流れる金髪は灯りに照らされキラキラと輝き、燃えるような灼眼は優しい色。少女の見た目であっても、自分と倍以上も離れているとは信じ難い事実。
仮の主である劉表――――龍飛は、自分に向けて苦しげに微笑んでいた。優しく胸に抱かれているねねは、与えてくれる温もりに甘えていた。
病が与える狂いそうな痛みに耐えながら微笑む龍飛。娘にも、臣下達にも、決して見せる事の無い、誇り高い龍の弱い姿は、失ってしまった『彼女』を思い出させる。
「キヒ……どうやらオレは次の戦くらいで最後らしい。だから……ねね、力を貸してくれ。あの子が幸せに生きられるように」
胸が締め付けられた。
此処にいるのは劉表という王では無く、龍飛という母。
乱世を喰らう王として悪を為しながらも、子の為の最善を選び続ける。それが彼女だった。臣下にも娘にも、王としての姿を示す彼女は、姿は全く違うのに月と同じに見えた。
「ねねと恋殿は何をすればいいのですか?」
分かっている。尋ねるまでも無い。彼女はあの……偽りの大徳、劉玄徳を大陸の王に据えようとしている。皇族の同血筋である菜桜ならば、配下としても優遇されるは必至。その為に力を貸すのだ、ねねと、ねねの主は。
腸が煮えくり返りそうな怒りを、抑えつけられない憎しみを、全て飲み込んで力を貸してくれと、そう言っているのだ。
死に淵の最期の願い。きっと、彼女は今だけしか“龍飛”には戻らない。ねねの前でだけしかその姿を見せない。だから……これが彼女の最期のわがまま。
ねねと恋を助けてくれた恩がある。でもきっと、ねねの心に湧いている彼女の力になりたいという気持ちは、助けられなかった月への懺悔と同質である
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