暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
少女は龍の背に乗り高みに上る
[8/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
捨てた劉備の方がよっぽど王に向いてるぜ。ま、後継を育てるには失敗だが、娘を育てるには成功したってとこか。

 そう考えて、ふっ、と自嘲気味に笑みを零した。
 菜桜は軍師達やどこぞの覇王ほど聡くは無い。だから母の心情を読み取ることが出来なかった。
 ギシリと歯噛みを鳴らした菜桜は、怒気を膨れ上がらせて口を開いた。

「それで……それで母上は誇り高き漢の皇族の末裔と言えるのですかっ! 王朝の忠臣を見捨てるのなら、人々に胸を張れると、天に向かって真っ直ぐ立てると思っているのですかっ!」

 実直な物言いは正論。ただし、義に即した心を優先するモノ。
 これが白蓮や桃香であれば、感銘を受けて己を見直したかもしれない。あの河北動乱の時とは状況が違うが故に。
 しかし劉表は彼女達のように義を優先するモノでは無かった。菜桜の母である劉表は……彼女にとって悪であった。

「もう黙れよクソガキ。忠臣を守って王朝が亡んだら意味が無いってーの。見捨てた場合の利は自分で考えるか藍々に聞け。オレはだりぃから説明しねー」

 べーっと舌を出して嘲りの声を向ける。
 もはや我慢出来ず、立ち上がって詰め寄ろうとするも……

「……いい加減にっ――――」
「これ以上騒ぐと劉表サマのお体に障るッスよ」

 まだ言い返そうとした菜桜を藍々が制した。
 ふるふると首を振られて、下唇を噛みしめた菜桜は、母の容体を気にしてそれ以上の言葉を紡ごうとはしなかった。
 もう何も興味は無いというように、劉表はまた脚を上下させて果実を選び始める。赤くて小さい、艶のある一つを嬉しそうに手に取って、彼女は笑った。

「キヒ、そうだ。漢の再興をするならオレの仕事が出来たな」

 果実を選んでいる間の沈黙に耐えて、漸く発された言葉に二人は首を捻る。病床にいる彼女が動かざるを得ない程の仕事は無いはず、そう考えて。
 口元を吊り上げ、三日月型に引き裂かれた嗤いは何が楽しいのか。劉表はただただ楽しげであった。

「お前らは今決めた予定通りに劉備と親交を深めて来い。劉璋のクソ坊主を追い遣るまで荊州には帰ってくるな」
「なっ……」
「虎の軍勢の対応は……まさか……彼女達を使うんスか?」

 驚愕から絶句した菜桜とは別に、もう間違うまいと瞬時に狙いを読んだ藍々。劉表は薄く目を細めて、ペロリと舌を出した。

「まあな。そろそろいいだろ。あと、曹操にも孫策にも乱世をかき混ぜる為の先手を打つ。オレの判断に全てを委ねろ」

 言い放つと同時に、あーんと口を開けて一つの果実を口に入れた。おいしそうに食べる彼女は無邪気な子供のようであるのに、二人には化け物にしか見えなかった。

「キヒ、キヒヒッ……さあ、悪いことしようぜ♪」

 嗤う哂う、嬉しそうに瞳を昏く渦巻か
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ