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乱世の確率事象改変
少女は龍の背に乗り高みに上る
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粟立ったのは二人共であった。

「……あたしから話しますけどいいッスか?」
「ん、手早くな。だりぃから」

 目を切って果実をコロコロと掌で転がして遊び始めた劉表を前に、藍々はきゅっと唇を引き結んだ。

「劉表サマの計画通りに……“袁家の毒”を暴走させる事に成功、曹操陣営に攻め入らせて敗走。さらには芋づる式に菜桜に反発を見せる輩が釣れたので、劉表サマからの内密の手紙をそいつらに渡しました。金と地位の餌を欲っして弱った孫策を攻める動きを見せてるッス」
「なげぇ……けど、まあいいや。続けろ」

 劉表は、あーん、と口を開ける。熟したその実を食べよう、と。
 冷や汗が藍々の背を伝った。長い間、夢とうつつのハザマに居た為に思考も出来ず、情報も入れていないはずなのに、予定通りで上々だと言わんばかりのその態度は、軍師として高い能力を持つ藍々を凍りつかせていた。
 まるで全てがこの女に操られているかのような恐怖から、これから話す事が、どうか彼女の予定外の事態でありますようにと、藍々が願ってしまうのも仕方ないこと。

「黄祖の処刑も終わりましたけど……鳳雛と黒麒麟が曹操陣営に正式に所属しました。劉備軍には……帰らないみたいッス」

 ピタリ、と劉表の手が止まった。空気も止まり、徐々に、徐々に張りつめて行く。
 藍々からの情報は小石が池に投げ入れられた程度の波紋に過ぎない。されども、劉表の興味を引くには十分であった。

「……へぇ。なら流れが変わるじゃねーか」

 ぽいっと彼女はまだ食べていない果実を投げ捨てた。もうコレはゴミだ、と言わんばかりであった。
 後に、口元を引き裂いて、劉表は楽しそうに器の中の果実を選び始めるも……ふう、と満足げな吐息を落として動きを止める。

「黒麒麟だけならいざしらず、まさかお前の友達が曹操の所に行くなんてなぁ。それも、大の親友を見限ってとか……キヒ、キヒヒヒ」

 少女の見た目だというのに、劉表の笑い声は妖艶に過ぎた。楽しい、という感情が圧し出ている悪辣な笑い。
 声を聞いている二人は、這い回る悪寒に、無意識の内に己が身体に手を回していた。

「原因は黒麒麟、だな。うん、間違いねー。あー、くそ、曹孟徳め、羨ましい。水鏡の甘ちゃん思想とお綺麗な劉備の妄信にどっぷり浸かった奴を変えられる人材なんかそうそういねぇぞ」
「せ、先生は甘ちゃんなんかじゃ――――」
「だりぃ、分かってるから喚くな藍々。お前とオレの思考は相容れない。手を組んでるのは利害の一致からだけだ、そうだろ?」

 恩師の事を貶されてむっとした藍々が言い返そうとするも、怪しく光る灼眼を向けられて口を噤んだ。
 次いで劉表は、はん、とバカにしたように表情を緩めた。

「で? どうしたいか言ってみろ。お前のお綺麗な正義
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