少女は龍の背に乗り高みに上る
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の顔には、もう笑顔は無い。
はらりはらりと涙が頬を伝っていく。ぎしりぎしりと心の奥底が軋んでいく。
気が狂いそうな絶望の暗闇の中で、心に押し込めている悲哀が溢れ出た。そうして少女は独り――――泣く。
「……っ……助けて……恋殿を助けて……月……」
夜天に浮かぶ三日月は嗤うだけで誰も救ってはくれない。
彼女は嘗て傍に居てくれた、陽だまりの居場所を作ってくれた銀髪の少女を求めた。
叶わない願いだと、頭では分かっているのに。失われたモノだと、もう割り切ったのに。主が“仕事”に向かう度に、いつも願ってしまう。
――ねねがあの時、彼女を救い出す為に戻ろうと言えば……良かったのですか
後悔を胸に渦巻かせる度に、愚かしい願いと分かっていながら、ねねはその願いを紡ぎ続けた。
今の仮の主と同僚の前で言うわけにはいかないから。そして、自分の主の前でその名を出せば、気がふれてしまうと分かっているから……独りの時しか、自分の弱さも、嘗ての陽だまりも、ねねは零す事が出来ない。
闇に溶け込む彼女の願いは……誰にも届く事は……無い。
†
ゆらゆらと蝋燭の灯が照らし出す寝台の上。うつ伏せに寝そべりながら、黒いキャミソールの中が見えるか見えないかギリギリの気だるげな動きで脚を上下させ、枕元に置いてある器の中から、赤く小さな実を一つ手に取り、わざとらしく大きく開けた口に含む。
もぐもぐと食べた後、器用にも種とへたを繋げた果物の残骸を、その少女はくくっと悪戯な笑みを浮かべてから空の器にいれる。
「あー……だりぃ。一個じゃ足りねー」
言葉をそのまま表すかのようにぐでーっと寝そべり、さらさらと長い金髪が寝台の上に広がる。灼眼の瞳をまた果物に向けて、じゅるりとよだれを啜った。
美しい煌びやかな金髪。燃えるような灼眼の瞳。透き通って見える白磁の肌。抱きしめれば折れてしまいそうな愛らしい少女の体躯。
その少女……否、女は劉表。荊州を治める州牧にして、漢王朝の血を濃く受け継ぐ旧き龍。
「母上……お体に障りますから起きたてで果物ばかり食べないでください」
ビシリと張りのある声が部屋に響く。
寝台の前で厳しい目を向ける少女、名は劉g――――真名を菜桜。劉表の実子である。
母親とは似ても似つかぬすらりと長い手足。薄い桜色の髪に瞳。誰が見てもこの二人を親子とは思わない。
父方の血が濃く出てしまった結果、見た目が余りに違ってしまった。大陸では往々にして、女子には女の遺伝が濃く出るはずなのだが、稀にこのような事態もある。
そのせいも含めて、劉表は劉gに期待していない。
期待していない理由としては、自分よりも知略に劣り、武勇もそこそこであり、人を惹きつける魅力も…
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