少女は龍の背に乗り高みに上る
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た笑い声に思える小さな吐息を零して、ねねは笑顔のままで俯いた。表情を変えることは、無かった。
今日の話題はもう尽きた。何も話す事が無くなった。何をしよう。どうしよう。毎日話していれば話題が尽きるのも当然。
否、あるにはあるが、それをすれば……彼女の主は……
次いでねねは、甘えるように恋に抱きついた。毎日、話が終わると、恋に自分の体温を分け与えるかのように、冷え切った心を温められるように、その行動を繰り返していた。
身体を起こしている恋に抱きつけば、身長差から顔は触れ合わず腰にしがみつくカタチ。しかし、ねねはそれが幸せだった。
耳に入るのは心臓の音。トクン、トクンと脈打つ生命が生きている原初の証明。それが聴こえればねねは幸せだった。
其処はねねにとって一番幸せな場所。主の鼓動が耳に優しく響くこの場所は、彼女に安らぎを約束していた。
――今日も、変わりないのです。
いつも通り、もう聞きなれた速さで刻まれるリズムは、安心と安息を心に広げていく。
ねねは恐れていた。
こうして動かない主を見ると、いつかその鼓動が聴こえなくなるのではないか、と。
だからこうやって恋の鼓動を確かめるのも日課になっていた。
ただ……恋が生きていると感じる瞬間は他にもある。
幾分か後、ピクリ、と恋の身体が動いた。ゆっくり、ゆっくりと、ねねに顔を向ける。
「……来た」
短い一言。昏い瞳は何を映しているのか。声音には感情など含まれてはいない。機械的で、事務的で、人に対話を求めるモノではない。
ねねは……笑顔を向ける。心の内では、涙と絶叫を吐き出しながら。
「……いってらっしゃい、なのですよ。夜間にまでお仕事が入ってしまうとは、今日はついてないですなぁ」
話している内に日は落ち、闇が部屋を覆い尽くしていた。
ねねの笑顔は見えないだろう。だが、ねねは笑顔を崩す事はなかった。
すっと、ねねが身体を離すと、漸く恋は寝台から立ち上がり、己が武器である真紅の方天画戟をひょいと手に持って、部屋から静かに出て行った。
ゆらゆらと歩く姿は幽鬼のようだった。
何かに糸で操られているかのような哀しい姿だった。
自分の意思など、恋には全く含まれていなかった。
――行かないで……
こうなる度に、ねねは何度もその言葉を呑み込んでいる。
傍に居るだけで変わらない日常。それでもいつか戻ってくるだろうと希望を持って話しかけているのに、ねねの行いを嘲るかのように、平穏の時間を無碍に奪い去る非日常。
遠くで絶叫が聴こえた。人の命が終わる声が聴こえた。バタバタと幾人かの走る足音が、遅れて聞こえた。
また、彼女の主は冷たくなってしまった。
ぶるぶると震える身体を自分で抱きしめた。ねね
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