暁 〜小説投稿サイト〜
Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
七月二十四日:『幻想御手』
[5/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
いと。だが、その結果が……黒なら?

 有り得ないと、信じてはいても。人の心に迷いは尽きない。
 『魔はそこに付け込み、芽吹くのだ』、と。『だから、神と。正義と言う指針、放棄した思考で楽な道を人は望むのだ』と。敬虔な切支丹(クリスチャン)の義父が言っていた。

『……はは、分かりました。何処に持っていけば良いですか?』

 笑いながら、カシュ、と軽い金属音。プルタブを開けたような、或いはアルミ缶を潰したような。
 それに、ほうと息を吐いて。嚆矢は『正午に駅前広場』と告げて、通話を切る。心に、安堵を浮かべて。

「これで、仕込みはよし。後は……『野となれ山となれ』」
「それを言うなら、『後は仕上げを御覧(ごろう)じろ』ですよぅ……」
「そうとも言うんだっけ、最近は」
「古今東西、そうとしか言・い・ま・せ・ん」

 わざとらしく、誤用して。誤謬で空気、幾らか和らげて。古い映画(キネトロープ)の俳優のように、大げさに肩、竦めて見せて。

「ところで、実はこちらも解決の糸口を見付けたかもしれないんです」
「へぇ、糸口を」

 と、にこにこ笑う飾利の言葉に興味が移る。あの彼女が、ここまで自信を持って口にするからには、かなりのものだろう。
 丁度、駅前広場行きのバスが停まる。それに乗り込みながら、先に段差を上がり、飾利の手を引いてエスコートしながら会話を。

「はい、あの、この事件に協力してくださってる学者さんが────」

 と、席に座ったところでコール音が鳴る。嚆矢の飾り気の無い、購入した時の設定のままのものとは違う、最近流行りの邦楽。

「わわ、マナーモードにしてませんでした」

 周りに謝りながら、衆目を集めた為に頬を染めて携帯に出た飾利。

「もしもし、佐天さん? もう、何日も連絡取れなくて心配したんですよ!」

 相手は、涙子らしい。人の会話を盗み聞きする悪趣味などは持ち合わせないので、窓の外を眺めて時間を潰す事に決める。
 流れていく車窓の景色を見ながら、思い返す。忘れてしまった、過去の己。

──何故、か。理由は、もう分かってる。『空白』の神刻文字(ルーン)、そう、飾利ちゃんに刻んだモノと同じ。
 もしも、俺にも……アレが、刻まれたのなら。()()()()()忘却の範疇に在ったのならば。

 そんな思考、その為か、思わず飾利の方を見た。その時──

「────大丈夫ですっ!」

 声、鋭く。響いた声は、飾利の。衆目を先程よりも、遥かに多く集めて。驚くほど、大きな声で。

「佐天さんは欠陥品なんかじゃありません! いつだって、私を引っ張ってくれる……わたしの、親友なんだから。だから──」

 涙を、(はなみず)を流しながら
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ