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雲は遠くて
8章 美樹の恋 (その8) 
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神社の拝殿(はいでん)の右側に、朱色や白壁(しろかべ)
美しい授与所(じゅよしょ)はあった。あたりには数人の参拝者がいた。
おみくじ箱が、授与所の正面におかれた、ほそ長い紅い台の上にあった。

白衣(しらぎぬ)に、紅い(はかま)の、
若いかわいい巫女(みこ)さんが、授与所の中にいた。

「こんにちは」と、美樹がいったら、
巫女さんも、「こんにちは」と笑顔でこたえた。

美樹は、コンパクトなバッグから、シープレザーのミントグリーンの
長サイフを出して、やや長方形の(あか)い木箱の、
左上にあいている細長い穴に、100円を入れた。
そして、その木箱の右側に、いっぱい入っている、おみくじから、
1枚を、つまみ取った。

「やった。大吉よ」

美樹は大喜びであった。

(はる)くんも、いいの出るといいね」

「おれ、今回はやめとくよ。美樹ちゃんに大吉じゃ、
おれのは、小吉とか、よくない気がするよ」

「そんなもんかも。わたし、1年間は、この運勢かしら」

「きっと、そうだよ、美樹ちゃん。この1年は最高だよ」

ふたりは、わらった。

美樹は、大吉のおみくじを陽斗(はると)に見せた。

「なになに、恋愛運にある相手は、おれのことかな?
おれのことだよね、ね、美樹ちゃん」

「そうよ。はるちゃんのことよ。わたしにとって、
はるちゃんは、すばらしい人だって」

美樹は、陽斗に、やさしく、ちょっと、
いたずらっぽく、微笑(ほほえ)んで、
大切そうに、おみくじを、サイフにしまった。

美樹の大吉のおみくじは、こんな内容であった。

《 大吉 》

今日のあなたは最高です。
することがすべて幸いの種となります。
心配ごともなく、(うれ)しい一日です。
こんな日は、わき目をふらず、
自分の仕事や勉強など、
すべきことに専念すると、
その運気はいよいよ盛んになります。
しかし、わがままになったり、
酒や色に溺れると、
せっかくの運気を、
追い出してしまうことになるので、
注意が必要です

【願い事】
かなう。他人のことばに、
(まよ)わされては、いけません。
【待ち人】
連絡もせずに、急に訪れる人に、
幸運のチャンスがあります
【失し物】
出てきます。しかし、ちょっと手間取ります。
その意味をよく考えて。
【旅行】
いいでしょう。ただし連れがいる人は、その人との関係に注意。
【ビジネス】
進んでいいでしょう。ちょっと強気くらいがいい。
【学問】
あなたの勉強方法でいいでしょう。
そのまま努力を続けてください。
【争い事】
ちょっと勝ったら、すぐ退くのがいい。
【恋愛】
その人こそが、あなたにとってすばらしい人

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