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万華鏡
第八十四話 リハーサルその六

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「あたし知ってるんだけれど」
「あっ、そうなの」
「何度か入っててさ」
 それで知っているというのだ。
「結構美味いぜ」
「そうなの。それじゃあ」
「ジャムパンが美味くてさ」
 お勧めはこれだというのだ。
「いいぜ」
「じゃあジャムパンね」
「皆で」
「まあジャムパンがなかったらさ」
 もう夕方だ、ジャムパンも全て売り切れてるかも知れないというのだ。美優はこのことも考えて四人に話すのだ。
「他のパンもいいから」
「じゃあアンパンかしら」
「それかもね」
「若しくは他のパンか」
「とにかくパンにしよう」
 四人もこう話してとりあえず店に入った、すると。
 パンチパーマに顔に向こう傷のあるいかつい顔立ちの大柄な中年男性がだ、五人に対してこう言って来た。
「いらっしゃいませ」
「あっ、はい」
「お邪魔します」
 五人はその人を見てまずは引いた、そのうえで挨拶を返した。パンチパーマの男は五人にさらに聞いてきた。
「何の御用で」
「パンを買いに来たんですけれど」
「そうなんですけれど」
「わかりました、ではどのパンをお求めで」
「そ、それは」
「その」
「ああ、井口君駄目だよ」
 ここで店の奥から穏やかな男の人の声が出て来た、そして。
 店からスキンヘッドと言っていい位の薄さの頭の男の人が来てだ、そのうえでそのパンチパーマの男に言った。
「君は今お店に出たらね」
「駄目ですか」
「君の性格と接客はともかくね」
「この髪型がですね」
「うん、それと傷もね」
 顔のそれもというのだ。
「消えるまでね」
「わかりました、じゃあ」
「お店の奥で売上の計算してくれるかな」
 とりあえずは、という口調の言葉で言うのだった。
「もうすぐ閉店だし」
「はい、それじゃあ」
 井口と呼ばれた彼は素直に店の中に入った、その彼と入れ替わりにだ。その髪の毛の薄い男は五人にこう言った。
「彼はアルバイトの大学生なんだ」
「だ、大学生だったんですか」
「そうだったんですか」
「そう、大学生なんだよ」
 こう五人に話すのだった。
「ヤクザ屋さんに見えたんだね」
「実は」
「それでまあ」
「何ていいますか」
「ははは、この前転んで顔を怪我してね。散髪屋さんに間違えてパンチパーマにされたんだ」
「それでなんですか」
「ああした外見だったですね」
「普段はパンを焼いてもらってるんだけれど」
 それでもだというのだ。
「働き者でね。手が空いたらすぐに接客に回ろうとしてくれたり店番をしてくれてるんだけれど」
「あの外見だからですね」
「ヤクザ屋さんに思われるんですね」
「君達と一緒でね。気の優しいとてもいい子だよ」
 外から受けるイメージと違い、というのだ。
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