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雲は遠くて
8章 美樹の恋 (その5) 

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清原美樹(きよはらみき)松下陽斗(まつしたはると)は、
さわやかにそよぐ春の風に、舞い散る、神社の桜を、
ベンチに(すわ)って(なが)めた。

「きれいな桜が見れて、ラッキーよね、(はる)くん」

「散っていく桜も、胸にしみるもんあるね、美樹ちゃん」

「せっかく、きれいに()いたばっかりの、
花なのに、すぐにまた、
()()ってしまうなんて、
ほんとに(はかな)いよね、はるくん」

「ひとの(いのち)もね。
桜と同じくらいに、おれは、
(はかな)い気がする。
おれたちも、いつのまにか、
20(はたち)になっちゃったもんね」

「この染井吉野(ソメイヨシノ)も、
わたしたちと同じ、20(はたち)なのよ。
なんとなく、うれしいわよね。
同じ歳の桜なんて。
毎年(まいとし)、いっしょに、
()()れたらいいね。」

美樹はわらって、まぶしそうに、陽斗を見た。

「美樹ちゃんの(ひとみ)、奥が深いね、
おれなんか、吸い込まれそうだよ」

美樹のきらきらとした瞳を見つめて、
ちょっと、(ほほ)(あか)らめると、
陽斗は声を出してわらった。

「この桜も、樹齢20年かぁ。
このソメイヨシノじゃ、100年は生きられるかな?」

「そうね・・・、わたしたちよりは、ながく生きられそう・・・」

「おれたちの人生って、何年くらいになるんだろうね」

「わたしには、想像もできないよ。
いつまで、生きているかなんて。
・・・でも、(はる)くんとは、
いつまでも、(なか)よくしていたいよ・・・」

「おれも・・・、もう、美樹ちゃんがいない、
人生なんて、考えられない・・・」

ふたりに、見つめあう時間が、一瞬、流れた。
それから、どちらかともなく、ふたりは、
キスをかわした。
高校一年のとき知り合ってからの、
はじめての、愛を確かめ合うような、
熱いキスだった。

ふたりだけしかいない、神社(じんじゃ)境内(けいだい)には、
午後の3時過ぎの、(おだ)やかな()の光が、
舞い散る桜や、近くの、ハナミズキの白い花、
新緑の植木などに、(しず)かに、
()(そそ)いでいた。

≪つづく≫ 
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