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【短編集】現実だってファンタジー
デフォルト・フェイス
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れに並ぶように後ろに歩いていく。だが、不意に前を見て心がざわついた。

「……デフォ顔だ」

前にいたプレイヤーの一人がデフォルト顔のアバターだった。さっき街ですれ違った人と同じ顔だ。気のせいか服装も同じのような気がする。さっき見かけたデフォ顔は街の外側に移動していたからその人とは別人だろう。

1人だけ見たら偶然だと思うだろう。2人でも、まだ偶然で片づけられる。それでも移動した先にまた同じ顔がいるというのは不気味だ。そして――

「その隣もデフォ顔。後ろもデフォ顔。横、も………」

次第に言葉が失われていく。
煩雑に並んだプレイヤーたちの姿が、全て同じ背丈。
全て同じ服装。
全て同じ――顔。

目の前に広がる推定数百名の全員が、同じ顔をしていた。
その顔が、一斉にこちらを向く。一様に同じ目が、一様に同じ方へ。全てが管理されたように統一された顔達が、統一感から大きく外れた自分のアバターに集中した。
並ぶ並ぶ、顔、顔、顔。感情表現用のエンジンは一切使われない無表情が自分を見ている。見ている。埋め尽くすように、一部の隙もないように見ている。何も言わない。何もしない。でも、アバターの顔だけはこちらを見つめている。

「うっ……!?」

私は急に、それが恐ろしくなった。個性を表すはずの顔が一切その役目を全うせず、無個性の集団はまるで同じ顔であることに何ら疑問を感じないように当然としてそこに立っている。そして、個性があるというだけの理由でこちらを見つめているようだった。
異常だ、この光景は。それともこの世界には同じ顔でなければいけない暗黙の了解でもあって、こんな顔をしているのだろうか。

個性を塗りつぶしているようだった。自分という存在を塗りつぶして、ひとつのシステムとして動いているかのようだった。彼らの頭上には時折チャットを行っていると思われるアイコンが点滅しているが、内容はうかがい知れない。
この世界のチャットは視界にアバターが入ってさえいれば表示されるオープンチャットと、互いの合意の上でフレンド登録をした相手にしか見えないクローズチャットの2種類があるらしい。つまり、あのデフォルト顔達はフレンド登録を済ませているのだ。

非人間的だ、と思った。こんな形でのコミュニケーションなど成立するとは思えない。互いに積極的に話をするのならばともかく、彼か、彼女かも分からない大量の顔達は一切こちらにオープンチャットを送ってくることはなかった。
どうにか恐怖を抑え込み、私は意を決してオープンチャットで彼らに話しかけてみる事にした。

『こんにちわ』

しばしの遅れを要し、一番私に近かったアバターが返答にオープンチャットを使用してきた。

『>>こんにちわ』

これは単純に挨拶に返しただけなのだろうか。それと
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