受け継がれた意地
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大きなため息が晴天の元に零れた。呆れでは無く、感嘆の吐息である。
一部の乱れの無い統率。指示通りに、手足のように動く各小隊。まるで生き物のようなソレは、まさしく覇王の親衛隊その最精鋭。
操るのは……軍の頂点に位置する覇王。
「二番突撃っ! 四番と五番は後退後に攪乱の為に交差せよっ! 一番、右回りに旋回後、横面包囲っ!」
中型の鎌を振り抜き、春蘭の扱う夏候惇隊を相手に指示を出していた。
凛、と鈴のなるような声音は、敵への威圧と共に味方への鼓舞を含み、従う者達を無双の勇者として駆り立てる。
華琳が初めに敷いていたのは遊撃陣。どのような事態にも対処出来る、率いるモノの力が最も繁栄される陣容であった。
最前線で戦う二人の少女――――季衣と流琉はその身体で扱うのは無理だろうと誰でも思うような武器を振るって春蘭を翻弄していた。
街から幾分か進んだ開けた平野での実践演習。設置された物見台でその様子を見ていた秋斗は、一所も見逃すまいと、無言でただその扱いを見定め続けている。春蘭の手伝い、警備隊から本隊への異動試験、秋蘭や霞の事務仕事補佐など手広く請け負っている秋斗は、その全てで武官の技能技術の悉くを頭の中に叩き込む為の労力を惜しむ事は無い。
対して、隣でその様子を見やる詠は、その見事さを理解していながらも、口を尖らせていた。
演習時、二人が言葉を交わす事は全く無かった。
秋斗はこれから将になるのだからと、曹操軍で最高水準である部隊指揮能力を盗む為に。
詠は……華琳の狙いを知っているが故に。
幾分か後、大きな声が上がった。親衛隊の勝利を知らせる、華琳の堂々たる勝鬨をあげよの声が。
結果としては華琳の部隊が春蘭を抑えた。しかし春蘭もさすがか、押し込まれて崩されながらも後一歩という所まで迫ったのだが、そこを逆手に取られて……否、予想通りだと抑え込まれたのだ。
兵達の興奮冷めやらぬ声が耳に届く中、秋斗はまた、ほうとため息を吐いてから言葉を零す。
「夏候惇隊って曹操軍の主力のはず、だよな」
前線を駆け抜ける夏候惇隊の練度は間違いないはず。だというのに、最後の砦として構える親衛隊がそれに“押し勝った”……その意味が分からない秋斗では無い。
「前線でも戦い、貫けなければ親衛隊として足りえない、本隊を囮としてまで詰め寄られてもその精強さを以って最悪の事態を利用して戦場を好転させられる。攻撃的っていうよりも、曹操殿の気質を表してるように見えるなぁ」
明確に頭に刻み込んで行く。柔軟な対応力や親衛隊にしては鋭い突破力が単純に凄い……とも言えるのだが少し違う。
考えれば不思議では無かった。効率を優先し、機をみて敏なりを体現しているような華琳が、自らで勝ちをもぎ取りに行く事は十二分に有り得る。さらには
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