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乱世の確率事象改変
受け継がれた意地
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浮かべると、何故か苛立ちが臨界点に達した。

「守られてなんて……あげるもんですか」

 楽しげに前を歩く二人には聞こえなかったのが幸いか。
 つい口を突いて出た囁きは、苛立ちを大いに含んでいるはずなのに、哀しみを溶かしたような響きであった。




 †




 覇王を守護する兵達は、その誉れ高き使命から己を磨き上げる事に全てを賭けている。愛する家族もいる、共に酒を酌み交わす友もいる、それでも、彼らの心にあるのは覇王の為。
 初めて少女が向かった戦を経験している者は部隊長や小隊長を任され、己が主が辿ってきた勇姿を追随する兵達に語り継ぎ、今の今まで想いを紡いで来た。
 黄巾後には、二人の少女の力量を認め、自分では無く彼女達が親衛隊長になることにも不満は無かった。全ては覇王の御心のままに、と。
 これらの事態を鑑みても、覇王が率いる親衛隊は嘗ての黒麒麟の身体と余りに似すぎている。これだけの短期間で技術を盗めるのも、練度の面からも精神的な面から見ても、なるほど、と納得が行くだろう。
 違いはただ一点……無意識の内に自身の現状に対してある種の諦観を持っている事。それだけであった。

 彼らは一つの追加指示を受けてその場に残されていた。
 主の武の片腕と言われている春蘭と先程まで子供のような言い合いをしていた男に話を聞け、というのが今回の指示。
 傍らには眼鏡を掛けた可愛らしい侍女。普段ならその男の隣にいるはずの、白銀の髪の侍女では無かった。何やら男と話し合いをしていたが、

「あんたっ……バッカじゃないの!?」
「でもやり方としてはありだろ?」
「……っ……人の気も知らないで……っ……バカぁっ!」
「ぐはぁっ!」

 口喧嘩になり、最後には太腿に蹴りを喰らわせて、彼女は走って去って行った。彼は涙目で自身の左脚を摩っている。
 こんな様ではあるが、その男――徐公明がどれほどの存在であるかを彼らは知っている。
 曹操軍の中でも憧れる者は少なくない。羨望と嫉妬を向けるモノも多々いる。それ即ち、黒き大徳、徐公明を認めている事に他ならない。

 全員の目が集まっていた。幾千もの力強い視線であったが、秋斗は臆すること無く、むしろ楽しそうにソレを受けていた。
 記憶を失っていても何処か懐かしく感じるその場の張りつめた空気に、思い出の切片があるやもしれないと、歓喜から口も緩んでいた。
 精強な曹操親衛隊は、主とは全く違うその飄々とした空気に僅かに困惑を漂わせていた。されども、規律に重きを置く彼らは乱れたりしない。

「あーっと、一応、知ってる奴とかいると思うけど、俺は徐晃、徐公明だ」

 なんとも間の抜けた声が辺りに広がった。
 どのような事を言うのかと緊張していた兵の何割かは、それによってほんの
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