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乱世の確率事象改変
受け継がれた意地
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 将の突貫に対して一人でも怯えを見せて腰を退いたか……否
 突撃と言われて撤退と言われるまで一人でも下がったか……断じて、否

 そうだ、この男はあの化け物部隊を指揮していたのだ、と漸く理解した。
 秋斗はこれを思考誘導の楔としただけである。黒麒麟の影は大きく、徐晃隊は異質。だからそれを使って今の自分を黒麒麟と認識させる為に仕掛けた。
 道化師が演じるのは自分自身。想いは聞いた。在り方も聞いた。道筋も聞いた。されども、黒麒麟の真似事しか出来ないだろう。

 だが、演じると決めていた。
 それは……詠が帰ってきた事によって、彼女が一番仲の良かった、彼の片腕の話を聞けたからだった。
 秋斗は血を吐くような努力をしていないという負い目を持っている。さらには胸の内にある想いの強さから、記憶と経験が無い為に、自分もそんな男になりたい……という憧れさえ抱いてしまった。ありえないベクトルへと想いは伝搬したのだ。秋斗が憧れた、などと聞けば、副長はどう思うのか。

 ズキリ、と彼の胸が痛んだ。同時に、胸の内に憤怒の炎が湧いた。涙が零れそうになった。叫びだしそうになった。
 分からない。分からないのだ。記憶が無い故に、その男がどれほど誰かを守る為に血反吐を吐いてきたか、一つたりとて理解してやれない。
 徐晃隊が、黒麒麟の身体とまで言わしめた部隊が、どれだけの想いを宿していたか、欠片も思い出せないのが……悔しくて仕方ない。

――命を賭けて強くなっていったそいつらの事を……俺はどうして思い出せないんだっ!

 狂いそうな程の悔しさが心を燃やし尽くす。彼らへの懺悔が心を切り裂く。願ってやまない羨望が脳髄まで焦がし切る。
 抑えようも無い。抑えられるはずが無い。そのまま感情の濁流は秋斗を怒りの渦に呑み込んだ。
 矛先は自分自身。そして……その男達の努力を知らない兵士達。覇王であれど悪戯好きな一面を見せ、今の秋斗を切り捨てる事で背中を押してくれた優しい女の子と純粋無垢な少女二人……優しい女達に守られている事に気付いていない彼らであった。
 激情を胸の内に押し込めて目を細めた秋斗は、自分も聞いた、一人の男の話を語り始めた。

「ある男が居た。義勇軍から黒麒麟に付き従い、毎日、毎日、自分よりも格上の相手に挑んだ大バカ者が居た。血反吐を吐く訓練が終わった後で、敵わないと知っていながらも挑み続けた男が居たんだ」

 今の秋斗がするべき話では無いかもしれない。それでも語らずにはいられない。

「慣れない事務仕事も覚え、戦術を学び、兵法を学び、寝る間も惜しまず、毎日毎日、サボる事無く、飽きる事無く、何かを目指すようにひた走っていた」

 ゴクリ、と喉を鳴らしたのは誰であったか。兵達の眼差しは全て秋斗に向いていた。それだけ彼らは化け物部隊を知
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