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乱世の確率事象改変
受け継がれた意地
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、敢えて本隊を餌として戦場を操る策など常套手段。それを兵法を隅々まで理解している華琳が行わないわけが無い。
 ただ、臣下たる軍師や将からすれば、万が一の事態にさせない事こそが最善ではある為、華琳自ら出陣する事も、引き込む策もなるべく使いたくは無いのだろうが。
 やっぱり凄いなぁ、と零した秋斗とは違い、詠は未だ難しい顔をして、秋斗の言葉を耳に入れていなかった。

「……えーりん?」

 何かしら反応するかと思ったが何も言わない彼女を不思議に感じて尋ねた。
 記憶を失い立ての頃とは違ってここ最近なら「えーりん言うなっ」と頭を叩かれるのだが、それすら無くて訝しげに眉根を寄せた秋斗は彼女に目を向ける。

「……足りない」

 零れた言葉と共に、悲哀に喘ぐように詠の瞳は細められる。

「足りないって何が?」

 詠ははっと息を呑み秋斗の方を見やった。後に、ふるふると首を振る。

「このまま練兵を積み上げても、華琳が目指してる水準には足りないのよ」

 絶句。
 秋斗は詠の言葉に耳を疑った。
 今の秋斗としては、曹操軍の親衛隊は完成されていると見えていたのだ。だというのに、このままさらに伸ばしても目指すモノに足りないと言う。一体目指しているモノは如何様なモノなのか、と。

「……曹操殿は一体どんな化け物部隊を目指してんだよ。まさか……徐晃隊か?」

 ポロリと零された一言に、詠は俯いてしまう。そんな言葉は秋斗の口から聞きたくなかった。

――もし、あんたに従ってたバカ達を華琳が扱えてたら……多分、さっきの演習を七割の時間で終わらせられたわ。

 そんな事を言えるはずも無く、はあ、と盛大にため息を漏らした。
 華琳が目指しているモノは徐晃隊最精鋭をより自分色に染めた上で顕現させること。即ち自身の親衛隊を失われた徐晃隊と同じ化け物部隊にするつもりなのだ。
 しかし、確かに徐晃隊が使っていた戦術を取り入れてきた事は分かるのだが、それでも足りない、と詠は感じていた。

 練度は、さすがは華琳を守る親衛隊。徐晃隊の最精鋭に勝るとも劣らなかった。
 連携にしても、これだけの短期間でより近しいモノをカタチに出来ているのは華琳が直接練兵を行ったからこそであろう。
 親衛隊で戦う二人の少女も、周倉と同レベルの指揮には届かないまでも副官として兵を操り、武力では彼の副長では及び得ない圧倒的なモノを誇って戦況を押し込めていた。
 士気に於いては華琳自ら率いて一番精強な春蘭の部隊を相手取っているのだ。戦場かと見間違うほどであり、本当の戦となればもっと高まるのは分かりきっている。
 親衛隊は最後の砦。ならば死を厭わぬのも言うに及ばず。

 それでも……詠はこのままでは徐晃隊に及ばない、と確信していた。
 何かが足りない
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