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銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
ステイルメイト
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たのである。だが、彼の主君は全く鼻白まなかった。口の端を小さく吊り上げて余裕を表してみせると、異なる問いを半白髪の部下へ向けた。
「卿の見るところ、提督たちの中に覇者としての器量のある人物はいるのか」
オーベルシュタインは軽く瞑目して諸提督の顔を思い浮かべてから、小さく首を振った。
「それほどまでの覇気と器量を併せ持つ人物は、残念ながら思い当たりませんな。……例えばレンネンカンプ提督は実践経験も豊富で堅実な男ですが、型にはまり、閣下を凌駕せんという野心はありません。ケスラー、ルッツ、ワーレンといった面々も十分に成熟しており能力面において不安はないですが、様々な個性を従える器量に不足を覚えます」
上官が白磁の頬を満足げに紅潮させている。オーベルシュタインは手元のルークを動かしながら、更に続けた。
「ビッテンフェルトは先般の猪突による失敗はあったものの、特筆すべき能力の持ち主と申せましょう。ですが彼には上官の制御が必要ですし、彼自身も恐らくは、閣下へ忠誠を尽くすことの方が向いていると感じているでしょう。メックリンガー提督は能力はともかく、彼自身が最高指導者たるを望みますまい。……無論、私自身のことは今更申し上げるまでもありませんが」
全てが本心でないにしても、ほぼ違わぬ評価を下している。オーベルシュタインは真正直な意見を上官へぶつけた。対するラインハルトは、あくまで戯れといった表情で鷹揚に肯いて見せた。
「卿でも他人を褒めることがあるのだという点においては、なかなかに興味深い批評であった」
そう言って皮肉げに笑うと、すべらかな手でオーベルシュタインのポーンを弾いた。互いにワインをひと口喉へと流し込む。
「ところで、卿のところの部下はどうだ。あれも面白い男であったが」
流れ落ちた金糸を鬱陶しげにかき上げて、象牙細工のような上官は、また愉快そうな笑みを鋭い視線に込めた。オーベルシュタインは暫し怪訝そうな顔をしたが、すぐに得心した様子で再び無感動なそれへと戻った。
「フェルナー大佐のことでしょうか」
「そうだ。あの男の忠誠心に関する解釈は、暴論ながら実に的を射ていた。そうは思わぬか?」
オーベルシュタインは失笑とも嘆息とも言える息を吐いた。
忠誠心というものは、その価値の理解できる人物に対して捧げられるもので、人を見る目のない主君に忠誠を尽くすのは無駄だと、電子手錠をかけられたまま、臆するでもなく言ってのけたのだ。その視点で言えば、自分が彼を評価するのではなく、彼の述べる自分への評価を聞くべきである。いや、彼の忠誠の対象はあくまでラインハルトであるはずだが。
「どうと申されましても、今のところ忠実に職務に邁進しているとしか申せません。まだ二月も経過しておりませんので」
「二月もあれば、批評くらいできるであろう」
「……。」
オーベル
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