第十二章 妖精達の休日
第五話 火は風と交わりて炎となる
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椅子に崩れ落ちた。
「……あなたなら分かるわよね。あたしがどうしてこうも焦っているのか―――その理由を」
「…………」
顔を上げたタバサの視線が、キュルケのそれと交わる。
タバサの瞳の中に宿るものを見たキュルケは小さく頷く。言葉にしなくとも目を見れば分かる。親友は伊達ではないのだ。キュルケが何を焦っているのか、その理由についてタバサはきちんと理解している。
「そう、あたし達とルイズ達は決定的に違う点がある。そしてそれは明確な差であり、埋めるための手段はあるけど、このままではその手段が困難に……最悪不可能になってしまうかもしれない」
キュルケ達とルイズ達の決定的な違い。それは簡単だ。士郎に抱かれているか抱かれていないか。ただ、それだけである。しかし、たったそれだけの事が、天と地ほど違う。普段では余り感じないが、ふとした時に気付く、気付いてしまう。ルイズ達と時の士郎の顔が、姿が、雰囲気が、明らかに自分たちと接する時と違い柔らかく、暖かいことに。
抱いた女と抱いていない女。普通の男でもそう言った相手に対する態度はかなり違う。
しかし、そう言ったものではないのだ。
士郎がルイズ達に向けるものは、そう言った、ある種の優遇とでも言うのか? そんな贔屓的なものではない。
ルイズ達にだけ見せる、心を開くような、無邪気と言うか、無防備と言うか……そんな柔らかいもの。
あれを見た時、キュルケは酷い嫉妬を覚えると同時、それを超える悲しみが襲った。自分では駄目なのか、自分では彼の支えになることが、受け止めることが出来ないのか、と。士郎がそう言ったものを向ける相手はルイズだけではない。そしてその相手には共通する点がある。それをキュルケは知っていた。
チャンスは幾度となくあったはずだ。しかし、キュルケはその尽くに手を出すことが出来なかった。
怖かったのだ。
初めての恋―――いや、“愛”した男。
その人に、拒否される事を。
だから、今まで幾度となくあったチャンスを棒に振ってきてしまった。
だが、それももう無しだ。
士郎の魅力を知った女子生徒たちの中には、本気で士郎に恋する者も出てくるだろう。そしてそれはきっと数人程度ではない筈だ。一人二人程度ならばいい。だが、それが十や二十になれば、流石の士郎も困り果て、そして距離を置くようになるだろう。その相手は、きっと自分たちも含まれる。無視されることはないだろう。しかし、士郎に近付く事はかなり困難になる。そうなれば、相手は士郎だ、成功確率は限りなくゼロに近付く。
だから、そうなる前に勝負を決めなければならない。
幸いな事に、勝機はこちらにある。
分の悪い賭けにはならない。
―――“切り札”もある事だし、ね。
小さく手を動かし、服の中に隠
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