第十二章 妖精達の休日
第五話 火は風と交わりて炎となる
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「―――もう、限界なのよ」
とある日の夜。
親友の部屋に呼び出されたタバサは、親友であるキュルケから向けられた言葉の意味が分からず訝しむように微かに眉をピクリと動かした。
キュルケの部屋にあるテーブルに、部屋の主であるキュルケと向かい合って座るタバサが目線で続きを促すが、キュルケは何か言おうと口を開こうとするも、直ぐに躊躇するように口を閉ざし顔を俯かせてしまう。何時も強気で自信に満ちている親友のらしからぬ様子に、胸に不安が湧き上がってくるのを感じたタバサは、そう言えば、と本日の授業が終わり、キュルケに夜部屋に呼ばれた時の事を思い出す。その時も今と同じように、隠しきれない不安と触れれば崩れそうな弱気な様子を見せていた。
「だから―――」
テーブルの上に置かれたワイングラスを掴んだタバサは、湧き上がる不安を飲み下そうとするかのように、口の中に流れ込むワインを―――。
「シロウと一発やって来るわ」
「―――ッぶっふ?!」
―――思いっきり吹き出した。
「ッ?! ゲホっ、こほっ、っ?!! っえほっ、っ!?」
「ちょっ、タバサどうしたのよ? ほら、これで口を拭きなさい」
タバサの口から吹き出たワインは、向かいに座るキュルケにはかからず、噴出元のタバサの顔を濡らしていた。ぽたぽたと、眼鏡の縁から溢れるワインの水滴を、むせながらもキュルケから渡されたハンカチで拭いていく。顔を、眼鏡をゆっくりと丁寧に、必要以上の時間を掛けて拭くタバサ。それは潔癖症などと言ったものではなく、混乱の極みに至った自分の心を落ち着かせるためのものであった。
今タバサの心の中では、先程キュルケが口にした言葉に対して、聞き間違え派と空耳派が盛大に議論を交わしあっていた。今のところキュルケが何か口にしたのは間違いないだろう点から、聞き間違え派が優勢であるが、一体どんな言葉と聞き間違えたのかが分からないことから、未だ結論には至ってはいない。顔や眼鏡に付いたワインを全て拭き取り終わったタバサは、未だ心の中で結論が出ていないことから、延長を求めるかのように手に持ったハンカチでテーブルを拭き始めた。
無言のままタバサがハンカチでテーブルを拭き始めるのを見たキュルケは、呆気に取られたように目を軽く丸くしたが、直ぐに小さく溜め息を吐いてテーブルの上に肘を乗せると、上半身を前に倒し、顎を組んだ手の甲に乗せた。
目線だけでタバサがテーブルの上に飛んだワインを拭く姿を眺めていたキュルケだが、待てれども何時までも終わらないその様子に、一度目を閉じると、薄く目を開いた。
「だから、ね。タバサも一緒にしない?」
「―――ッッ?!?!?」
ドンガラガッシャンッ!! とテーブルの上に置かれた未だワインが入っている瓶やらワイングラスを弾き飛ば
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