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分裂
第一章
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「分裂。したわね」
「もうチェコスロバキアはないんだ」
 青年は少しばかり沈んだ声でまた述べた。述べながらその石の路を歩く。石畳の路を。
「これからはね」
「チェコと」
「うん。スロバキア」
 二人で言った。
「エディタ。君の国籍はだから」
「そうよ。スロバキアになるわ」
 エディタは青年の言葉に俯いたまま答えた。
「それでペテル、貴方は」
「チェコ人になるね。これからは」
「因果なものね。ソ連も共産主義もなくなっても」
「国家が分かれてしまうなんて」
「ドイツは一つになってけれど私達は分かれて」
「民族自決か」
 ペテルはここで上を見上げた。空は白く虚ろな色の雲が完全に覆ってしまっていた。
「聞こえはいいね」
「ええ。そして理念としてもいいわ」
 二人はそれは認めた。
「けれど。私達はね」
「ずっと。一緒だったからね」
「私がここに来たのはまだお母さんのお腹の中にいる頃だったわ」
 エディタは前を見ていた。そこにはティーン教会が見える。二つの塔が並んで立つ白と暗灰色が印象的な対比を見せているこの教会はプラハの象徴の一つでもあり。彼女は今それを見ているのだ。
「それで子供の頃からずっとあの教会を見ていて」
「僕もだよ」 
 そしてそれはペテルも同じだったのだ。
「あの教会の塔には僕もよく登ったよ」
「そうね。私もだったわ」
 彼女はこれも彼と同じだったのだ。
「そして貴方と出会って」
「よく覚えてるよ」
 ペテルもまた教会に目をやってきていた。その塔のある教会をだ。
「あの時。僕達はまだ学生だったよね」
「お互い高校に入ったばかりで」
 二人の出会いはその時だったのだ。
「たまたま教会のあの塔の中でぶつかってね」
「痛かったよ、少し」
 ここで少し苦笑いを浮かべるペテルだった。

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